2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月9日 月曜日
虫がいっぱい寄ってきて眠れない・・・。フルフェイスヘルメットを被ってヘルメットのシールドを下ろし、手袋をはめる。完全防備で、寝る。はたから見たらこれまた完全に不審者だな・・・。
3時間ほど寝て、再び走り出す。空はまだ真っ暗だ。
順調に距離を稼ぐが、明るくなってきた頃にまたもや警察に捕まった。スピード違反だ。
スピードガンを持った警官に仮設の交番の中へと連れて行かれる。
ドキュメントを提出すると、警官は白々しい笑顔を見せ、私のドキュメントを、わざとらしく、映画の役者のようにオーバーアクションで制服の内ポケットに入れる。そして大きく両手を広げ、「これがないとお前はここから動けないだろう」と言って金を要求してきた。10,000ルーブル、4万強の金額だ。バカバカしい。
私は10,000ルーブルもの大金の支払いを拒否するが、この警官はタチが悪かった。30分抗議してもドキュメントを返してくれず、トロイカも通じない。現金がないなら銀行に取りに行けと言っている。どうしても金が欲しいようだ。
その後1時間ほど交渉して、10,000ルーブルから500ルーブルに値下げしたところが限界だった。私は早く先に行きたかったので、仕方なく500ルーブルを警官に手渡す。警官はまたもや白々しい笑顔を作り、大げさな身振りで内ポケットにしまったドキュメントを私に返還した。
金は全てその警官の小遣いになるのは分かっていた。金を手にした警官に対して「その金で子供におもちゃでも買ってやれ」と皮肉を言って、私は検問をあとにする。
時間と金の無駄だ。違反には気を付けよう・・・。
途中ガソリンスタンドで給油するが、相変わらず見ず知らずのロシア人が話しかけてくる。どこから来たんだ、と、どこまで行くんだ、だ。いつものように自分は日本人でウラジオストクからモスクワまで行く事を告げると、ロシア人は驚く。
ここまでどのくらい掛かったか聞かれ、指折り数えてハバロフスクから6日だと答えるとそのロシア人は目を丸くして驚いている。彼の反応で、ここまでいいペースで来ている事が分かった。
マガジン(売店)でアイスを買うが、ふと目にした時計の時間がおかしい。自分の腕時計よりも2時間遅い。時計の時間くらい合わせとけよ、と思う。
しばらく幹線道路をひた走り、再びガソリンスタンドに入る。
給油を終え、マガジンでタバコを買うが、ここでも時計の針が2時間遅れている。ぴったり2時間ずれているのだ。
ここでようやく気が付いた。時差だ。自分の腕時計が表示しているのは7時だが、ここの時計の針は5時を指している。2時間得した・・・。
腕時計の表示を2時間戻す。時差か・・・不思議な感覚だ。西に向けて走っているうちに、いつの間にか2時間得している。時計の針が反時計回りに2時間分回っていたのだ。う〜ん、不思議だ。宇宙と地球の回転運動に想いを巡らせて、気分は良かった。
よし、今日は2時間余分に走ろう!
得した気分で走っているうちにだんだんと暗くなってきた。どうやら村に入っていくようだ。標識には 「Тайшет」と書かれている。タイシェットだな。
街灯も少なく、道もよく分からない。しばらく走るといつの間にか幹線を外れていて、道に迷っていた。空はもう真っ暗だ。
地図を見るために街灯のあるカフェのような建物の前にXL1200を止める。カフェのような建物はカフェではなくバーニャ(風呂場)だった。バーニャに入りたいとも思ったが、どういう仕組みか分からない。ハバロフスクでトーハたちに連れて行ってもらったが、トーハたちが金を出してくれたので、なんぼするかも分からない。見知らぬ土地では荷物を預けるのも心配だ。
しばらく考えていると、バーニャから3人組の男が出てきて、こっちに向かって歩いてくる。彼らは私がツーリストだという事に気付いたようで、興味津々といった様子で話し掛けてきた。
どこから来たんだ・・・いつものお決まりの会話をしていると、突然その中のひとりがこう言った。
「マリファナ持ってないか?」
私は呆れて「ニェット(ノー)」と言い、逆やろ普通ツーリストが現地人に聞くやろ、というジェスチャーをすると、男たちは大笑いしながら頷いている。悪い奴らではなさそうだ。
男たちは車に乗り込んでついて来い、踊りに行くぞ、と言って走り出す。なんかよー分からんけど、とりあえずついていくか・・・。XL1200に跨がってエンジンを掛ける。しかし、走り出そうとした瞬間に、バランスを崩してこけてしまった。やってもーた・・・。
男たちは私が転倒した事に気付いたのか気付かなかったのか分からないが、そのまま走り去っていく。どうやら今日は少しくたびれているようだ。フルパワーでバイクを起こす。
すると誰かが声を掛けてきた。声がした方向に振り返ると、男がひとり、車の中からこっちを見ている。私の様子をずっと伺っていたようだ。男はこう言った。
「ついて来い」
救いの神なのかも知れない。さっきの3人組について行ったら、何かトラブルに巻き込まれていたのかも知れないな。そう思うと、転倒して良かったようにも思えてきた。
男の車についていく。
着いたのはアパートだった。ハバロフスクで世話になったエヴァンの家と同じようなアパートだ。俺の家に泊まれと言ってくれている。ありがたい。
男の部屋は4階建てのアパートの3階だった。コンテナバッグをバイクから降ろし、男の後についていく。
狭くて暗い階段を上がり、部屋に入ってくつろがせてもらう。男の名はイヴァン。2メートル近い長身で、笑顔はない。部屋には他にも人がいるようだ。
ソファに座ってイヴァンと会話するが、何を言っているのか分からない。聞いた事がない単語を連発している。イヴァンに露和辞典を渡し、私は和露辞典を開く。辞典を真ん中に置いて会話する。
「お前は客だ」「ここはホテルだ」「宿泊費」・・・ふむふむ、なるほど・・・。イヴァンが言っている事が分かってきた。金だ。宿泊費と飯代を要求している。
こんな事は初めてだった。今まで私に寝床を用意してくれたロシア人は、私に金を要求してくる事はなかった。ジョン、トーハ、エヴァン、アクマール、モーテルの女、そしてアリーのイヴァン。寝る場所を提供してくれるお礼として金を払うのは当然かもしれないが、目の前にいるイヴァンは明らかに金目当てで私に近づいてきたのだ。
なにやら裏切られたような気分だ。今まで運が良かっただけだったのかも知れない。いい奴ばかりだったからだ。中にはこんな奴もいるだろう。これが普通なのかも知れないが、むかつく。
悪い予感はしていた。部屋に入ってからもイヴァンに笑顔はなく、受け答えも引っかかっていた。「ダー(そうだ)」の言い方がねちっこく、偉そうで鼻につく感じだったのだ。人を見下すような態度というか、まあ、ひと言で言えば生意気だった。明るい部屋の中で気付いたが、目つきも悪い。こいつ悪人やな。
バカバカしくなり、日本語で、というか大阪弁で「アホか、しばくぞ」と罵る。何を言っているかは分からないだろうが、私が怒っているのは分かるだろう。
しばらくすると別の男がやってきて、何か言っている。セックス、セックス、と言っているようだ。その男が指差す方向を見ると、ベッドに女が座っているのが見える。
半裸の女の肩には薔薇の、背中にはサソリか何かのタトゥーが見える。見るからに不健康そうな女だ。シャブ中やないか・・・。
イヴァンがその女を指差してセックスと言いながらその仕草をする。金が欲しいのだろうが、私は女を買う気などない。お前らにやる金もない。
ふとピストルの事が頭に浮かんだ。エヴァンの言う通りにピストルを持ってきていたとしらどうだろうか。部屋を見渡してイメージする。映画に出てくるような、威嚇射撃だ。
まず天井にぶっ放す。これはダメだ。ここはアパート、上には住人がいる。壁に向かって撃つのもNGだな・・・。
次に女の向こうに見える窓だ。いや、これもまずい。流れ弾が外を歩いている人に当たる可能性がある・・・。
やはりピストルを持たないで正解だった。持ってたら頼ってしまう。
いずれにせよこいつらには力ずくで金を奪い取るような度胸はない。
アホと言っても通じないので、ファックと言って部屋を出る。ファックは通じるだろう。
階段を下りてコンテナバッグをXL1200に積み、エンジンを掛ける。イヴァンともう一人の男が表まで出てきているが、そいつらの目の前で中指を立てて走り出す。
あーむかつく!時間めっちゃ無駄にしたっ!
迷路のようなタイシェットを突き進む。先にはT字路が見える。右に行くか左に行くか迷いながら突き当たりに出ると、右から子供の集団が歩いてくる。
7〜8人の子供の中に、老人がひとりいるのが見える。老人は先生か何かか。それにしてもこんな夜遅くにおかしい。街灯もない真っ暗闇の中、異様な光景だ。
するとその子供達がバイクに群がってくる。みんな笑顔は無く、目が死んでいる。まるでゾンビだ。
お前何とかせえよ、と老人を睨みつけるが、その老人は子供達を制する様子も無く、子供達に紛れて私に近づいてくる。あかんこいつもゾンビや。
危険を感じた私は子供達が来た方向とは逆方向に加速する。子供の中の何人かが荷物に捕まってぶら下がる。私は荷物にしがみついたゾンビどもを振り落とすために蛇行しながら加速し、最後のゾンビが手を離したのを確認してから、スロットルを大きく開けて加速した。
もう遠く離れたが、サイドミラーに映るその集団はまさにゾンビだ。なんやねんこの村・・・。
その後は村を出るのに必死だった。とにかく早くタイシェットを出たかった。もう誰かに話し掛けられても止まらんぞ!
なんとかタイシェットを出て、幹線に戻る。
危なかった。タイシェットにもいい奴はいるだろうが、相性が悪すぎる。印象が最悪だ。帰りは猛ダッシュで通過する事を心に刻む。
しばらく幹線を走り、ガソリンスタンドで給油し、そのままバイクの上で横になる。
今日は厄日だ。警官に金を取られ、悪人に捕まり、ゾンビの集団に追われた。
悪徳警官に親切を装った悪人に物乞い・・・。海外旅行でよくあるトラブルが一気にきた感じだ。これまで本当に運が良かったんだ。ずっといい1日といい夜を過ごしてきて、調子に乗っていたのかもしれない。
これからは用心しよう。
あ〜、怖かった・・・。
次は>『アントンのシャシリク』 / Тяжински(?)
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月9日 月曜日
虫がいっぱい寄ってきて眠れない・・・。フルフェイスヘルメットを被ってヘルメットのシールドを下ろし、手袋をはめる。完全防備で、寝る。はたから見たらこれまた完全に不審者だな・・・。
3時間ほど寝て、再び走り出す。空はまだ真っ暗だ。
順調に距離を稼ぐが、明るくなってきた頃にまたもや警察に捕まった。スピード違反だ。
スピードガンを持った警官に仮設の交番の中へと連れて行かれる。
ドキュメントを提出すると、警官は白々しい笑顔を見せ、私のドキュメントを、わざとらしく、映画の役者のようにオーバーアクションで制服の内ポケットに入れる。そして大きく両手を広げ、「これがないとお前はここから動けないだろう」と言って金を要求してきた。10,000ルーブル、4万強の金額だ。バカバカしい。
私は10,000ルーブルもの大金の支払いを拒否するが、この警官はタチが悪かった。30分抗議してもドキュメントを返してくれず、トロイカも通じない。現金がないなら銀行に取りに行けと言っている。どうしても金が欲しいようだ。
その後1時間ほど交渉して、10,000ルーブルから500ルーブルに値下げしたところが限界だった。私は早く先に行きたかったので、仕方なく500ルーブルを警官に手渡す。警官はまたもや白々しい笑顔を作り、大げさな身振りで内ポケットにしまったドキュメントを私に返還した。
金は全てその警官の小遣いになるのは分かっていた。金を手にした警官に対して「その金で子供におもちゃでも買ってやれ」と皮肉を言って、私は検問をあとにする。
時間と金の無駄だ。違反には気を付けよう・・・。
途中ガソリンスタンドで給油するが、相変わらず見ず知らずのロシア人が話しかけてくる。どこから来たんだ、と、どこまで行くんだ、だ。いつものように自分は日本人でウラジオストクからモスクワまで行く事を告げると、ロシア人は驚く。
ここまでどのくらい掛かったか聞かれ、指折り数えてハバロフスクから6日だと答えるとそのロシア人は目を丸くして驚いている。彼の反応で、ここまでいいペースで来ている事が分かった。
マガジン(売店)でアイスを買うが、ふと目にした時計の時間がおかしい。自分の腕時計よりも2時間遅い。時計の時間くらい合わせとけよ、と思う。
アスファルトもこんな感じで表面に砂利が浮いていて、ズルズルとよく滑ります。 遠くに見える丘は、村への分岐点になっています。 こんな道が延々と続き、1日走っても景色が変わらないのです。 無心に走っていると眠くなります。 |
しばらく幹線道路をひた走り、再びガソリンスタンドに入る。
給油を終え、マガジンでタバコを買うが、ここでも時計の針が2時間遅れている。ぴったり2時間ずれているのだ。
ここでようやく気が付いた。時差だ。自分の腕時計が表示しているのは7時だが、ここの時計の針は5時を指している。2時間得した・・・。
腕時計の表示を2時間戻す。時差か・・・不思議な感覚だ。西に向けて走っているうちに、いつの間にか2時間得している。時計の針が反時計回りに2時間分回っていたのだ。う〜ん、不思議だ。宇宙と地球の回転運動に想いを巡らせて、気分は良かった。
よし、今日は2時間余分に走ろう!
得した気分で走っているうちにだんだんと暗くなってきた。どうやら村に入っていくようだ。標識には 「Тайшет」と書かれている。タイシェットだな。
街灯も少なく、道もよく分からない。しばらく走るといつの間にか幹線を外れていて、道に迷っていた。空はもう真っ暗だ。
地図を見るために街灯のあるカフェのような建物の前にXL1200を止める。カフェのような建物はカフェではなくバーニャ(風呂場)だった。バーニャに入りたいとも思ったが、どういう仕組みか分からない。ハバロフスクでトーハたちに連れて行ってもらったが、トーハたちが金を出してくれたので、なんぼするかも分からない。見知らぬ土地では荷物を預けるのも心配だ。
しばらく考えていると、バーニャから3人組の男が出てきて、こっちに向かって歩いてくる。彼らは私がツーリストだという事に気付いたようで、興味津々といった様子で話し掛けてきた。
どこから来たんだ・・・いつものお決まりの会話をしていると、突然その中のひとりがこう言った。
「マリファナ持ってないか?」
私は呆れて「ニェット(ノー)」と言い、逆やろ普通ツーリストが現地人に聞くやろ、というジェスチャーをすると、男たちは大笑いしながら頷いている。悪い奴らではなさそうだ。
男たちは車に乗り込んでついて来い、踊りに行くぞ、と言って走り出す。なんかよー分からんけど、とりあえずついていくか・・・。XL1200に跨がってエンジンを掛ける。しかし、走り出そうとした瞬間に、バランスを崩してこけてしまった。やってもーた・・・。
男たちは私が転倒した事に気付いたのか気付かなかったのか分からないが、そのまま走り去っていく。どうやら今日は少しくたびれているようだ。フルパワーでバイクを起こす。
すると誰かが声を掛けてきた。声がした方向に振り返ると、男がひとり、車の中からこっちを見ている。私の様子をずっと伺っていたようだ。男はこう言った。
「ついて来い」
救いの神なのかも知れない。さっきの3人組について行ったら、何かトラブルに巻き込まれていたのかも知れないな。そう思うと、転倒して良かったようにも思えてきた。
男の車についていく。
着いたのはアパートだった。ハバロフスクで世話になったエヴァンの家と同じようなアパートだ。俺の家に泊まれと言ってくれている。ありがたい。
男の部屋は4階建てのアパートの3階だった。コンテナバッグをバイクから降ろし、男の後についていく。
狭くて暗い階段を上がり、部屋に入ってくつろがせてもらう。男の名はイヴァン。2メートル近い長身で、笑顔はない。部屋には他にも人がいるようだ。
ソファに座ってイヴァンと会話するが、何を言っているのか分からない。聞いた事がない単語を連発している。イヴァンに露和辞典を渡し、私は和露辞典を開く。辞典を真ん中に置いて会話する。
「お前は客だ」「ここはホテルだ」「宿泊費」・・・ふむふむ、なるほど・・・。イヴァンが言っている事が分かってきた。金だ。宿泊費と飯代を要求している。
こんな事は初めてだった。今まで私に寝床を用意してくれたロシア人は、私に金を要求してくる事はなかった。ジョン、トーハ、エヴァン、アクマール、モーテルの女、そしてアリーのイヴァン。寝る場所を提供してくれるお礼として金を払うのは当然かもしれないが、目の前にいるイヴァンは明らかに金目当てで私に近づいてきたのだ。
なにやら裏切られたような気分だ。今まで運が良かっただけだったのかも知れない。いい奴ばかりだったからだ。中にはこんな奴もいるだろう。これが普通なのかも知れないが、むかつく。
悪い予感はしていた。部屋に入ってからもイヴァンに笑顔はなく、受け答えも引っかかっていた。「ダー(そうだ)」の言い方がねちっこく、偉そうで鼻につく感じだったのだ。人を見下すような態度というか、まあ、ひと言で言えば生意気だった。明るい部屋の中で気付いたが、目つきも悪い。こいつ悪人やな。
バカバカしくなり、日本語で、というか大阪弁で「アホか、しばくぞ」と罵る。何を言っているかは分からないだろうが、私が怒っているのは分かるだろう。
しばらくすると別の男がやってきて、何か言っている。セックス、セックス、と言っているようだ。その男が指差す方向を見ると、ベッドに女が座っているのが見える。
半裸の女の肩には薔薇の、背中にはサソリか何かのタトゥーが見える。見るからに不健康そうな女だ。シャブ中やないか・・・。
イヴァンがその女を指差してセックスと言いながらその仕草をする。金が欲しいのだろうが、私は女を買う気などない。お前らにやる金もない。
ふとピストルの事が頭に浮かんだ。エヴァンの言う通りにピストルを持ってきていたとしらどうだろうか。部屋を見渡してイメージする。映画に出てくるような、威嚇射撃だ。
まず天井にぶっ放す。これはダメだ。ここはアパート、上には住人がいる。壁に向かって撃つのもNGだな・・・。
次に女の向こうに見える窓だ。いや、これもまずい。流れ弾が外を歩いている人に当たる可能性がある・・・。
やはりピストルを持たないで正解だった。持ってたら頼ってしまう。
いずれにせよこいつらには力ずくで金を奪い取るような度胸はない。
アホと言っても通じないので、ファックと言って部屋を出る。ファックは通じるだろう。
階段を下りてコンテナバッグをXL1200に積み、エンジンを掛ける。イヴァンともう一人の男が表まで出てきているが、そいつらの目の前で中指を立てて走り出す。
あーむかつく!時間めっちゃ無駄にしたっ!
迷路のようなタイシェットを突き進む。先にはT字路が見える。右に行くか左に行くか迷いながら突き当たりに出ると、右から子供の集団が歩いてくる。
7〜8人の子供の中に、老人がひとりいるのが見える。老人は先生か何かか。それにしてもこんな夜遅くにおかしい。街灯もない真っ暗闇の中、異様な光景だ。
するとその子供達がバイクに群がってくる。みんな笑顔は無く、目が死んでいる。まるでゾンビだ。
お前何とかせえよ、と老人を睨みつけるが、その老人は子供達を制する様子も無く、子供達に紛れて私に近づいてくる。あかんこいつもゾンビや。
危険を感じた私は子供達が来た方向とは逆方向に加速する。子供の中の何人かが荷物に捕まってぶら下がる。私は荷物にしがみついたゾンビどもを振り落とすために蛇行しながら加速し、最後のゾンビが手を離したのを確認してから、スロットルを大きく開けて加速した。
もう遠く離れたが、サイドミラーに映るその集団はまさにゾンビだ。なんやねんこの村・・・。
その後は村を出るのに必死だった。とにかく早くタイシェットを出たかった。もう誰かに話し掛けられても止まらんぞ!
なんとかタイシェットを出て、幹線に戻る。
危なかった。タイシェットにもいい奴はいるだろうが、相性が悪すぎる。印象が最悪だ。帰りは猛ダッシュで通過する事を心に刻む。
しばらく幹線を走り、ガソリンスタンドで給油し、そのままバイクの上で横になる。
今日は厄日だ。警官に金を取られ、悪人に捕まり、ゾンビの集団に追われた。
悪徳警官に親切を装った悪人に物乞い・・・。海外旅行でよくあるトラブルが一気にきた感じだ。これまで本当に運が良かったんだ。ずっといい1日といい夜を過ごしてきて、調子に乗っていたのかもしれない。
これからは用心しよう。
あ〜、怖かった・・・。
次は>『アントンのシャシリク』 / Тяжински(?)
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