『ヴィタリー』モスクワ その5 / Москва(5)

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月20日金曜日

朝から電車に乗ってセントラル観光。





ひとりでぶらぶら、いろんな駅で降りてはぶらぶら。
トイレに行きたくなったらいつものマクドナルドへ行く。何も食べずに店を出て、またぶらぶら・・・。
ウデンハ、クラスノヤプローシチ、あとは名前が分からない観光地をぶらぶらぶらぶら、ひたすらぶらぶら。
やはりひとりで観光は退屈だった。公園のベンチで昼寝して時間を潰す。


何かがおかしい。素晴らしい景色や歴史を感じさせる美しい建物を見ても、何を見ても感動がない。
時折日本人らしき観光旅行の団体を見るが、彼らはきっと高額なツアー代を出してモスクワ観光に来ているのだろう。それほど価値のあるモスクワで私は自由に動いているのだ。贅沢な時間のはずだった。にもかかわらず一向に観光を楽しめない。
「こんにちは!」と日本人観光客に話しかける気も起こらない。

なぜだか分からないが、どこに行ってもひどく退屈で、憂鬱だった。何も感じなくなっている。
シベリアの道をバイクで走り続けているうちに、感覚が麻痺してしまったのだろうか?
ひとりではどうする事も出来ず、沈んだ気分は浮かぶ事なく、楽しい事などひとつもない。そんな私に話し掛けてくるロシア人もいない。退屈だ・・・。
公園のベンチでボーッとしていたら、少し空が暗くなってきた。ヴィタリーの家に戻ろう・・・。

地下鉄から電車を乗り継いで、ヴィタリーの家に到着。
庭に置いているXL1200のオイル残量を確認し、少しエンジンオイルを足す。
すると遠くの方からバイクの音が聞こえてきて、家の前で止まった。門が開いて中に入ってくる。ヴィタリーだ!

ヴィタリーはハバロフスクからバイクを鉄道に乗せてモスクワに運んでいた。そのバイク、YAMAHA V-MAXに乗ってヴィタリーが帰ってきたのだ。
ヴィタリーにとってはハバロフスク以来のV-MAX、嬉しそうに笑顔で帰ってきた。
私も入れたばかりのオイルを回すためにXL1200のエンジンを掛ける。

XL1200はあっさり始動し、調子よくアイドリングしている。エンジンに火を入れるのはいつ以来だろうか。こうしてエンジンを掛けるのは、モスクワに着いてから、ヴィタリーの家に来てから、初めての事だ。
久々にXL1200の排気音を聞いて少し元気になった。
ヴィタリーもV-MAXが帰ってきて、やっと本来の調子を取り戻したように見える。

夜はペリメニ、パン、チーズ、生野菜といつもの晩御飯を食べ、チャイを飲みながらヴィタリーとゆったりした時間を過ごす。ヴィタリーは英語と日本語を話すので会話も楽だ。
お互いの家族や仕事、これまでの人生の事など、ロシア語の勉強を交えながら、時々私が日本語を教えながら、会話する。

驚いたのはイーラが奥さんではなかった事。てっきりイーラはヴィタリーの奥さんだと思っていたが、「違う違う!」といってヴィタリーが大笑いしたのだ。
聞くとイーラはこの家の大家、というか持ち主で、ヴィタリーはイーラにお金を払って部屋を借り、この家に住んでいるのだと言う。

イーラはいつも部屋にこもり、食事をするのも別だった。不思議に思っていたが、そういう事だったのか、納得。
それにしても夫婦でもない年の近い男女がひとつの家で暮らすなんて、日本ではあまり聞かないが、ロシアではよくある事なのだろうか、これはこれで不思議な感じがする。

そんな少し複雑な環境にも関わらず、ヴィタリーは私の面倒を見てくれている。
ハバロフスクで出会い、モスクワに着いたら電話するように、と言って私に電話番号を教えてくれていた。私はそのヴィタリーの言葉を信じ、モスクワ目掛けて突き進んできたのだ。

あの夜、モスクワに着いて、もしヴィタリーが電話に出てくれていなければ、間違いなく路頭に迷っていた事だろう。いつバーストするかも分からないタイヤを気にしながら、大都会モスクワでキャンプ地を探すのは困難だ。途方に暮れてどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。

今は何も怖くなく、不安な要素もない。見知らぬ土地で安心して過ごせるというのは、なんて幸せな事なのだろうか。
おそらくバイクに乗っていなかったら全然違う旅になっていただろう。旅の始まりの船の中、ルーシ号からここまで、多くのバイカー達や親切なロシア人に助けられながら走り続け、今、こうしてモスクワでリラックスしている。

街を歩き回って疲れ果ててもこうして帰って休める場所がある。まるで我が家のようにくつろぐ事が出来るのはヴィタリーのおかげだ。
ヴィタリーは暖かく私を迎え入れてくれ、当然のように寝床と食事を用意してくれている。そして、いつまでもゆっくりしていけばいい、と言って、自由にさせてくれているのだ。
感謝してもしきれないし、何かを返す事も出来ない。ただヴィタリーの優しさに甘えるしかなかったが、そんな私をヴィタリーは受け入れてくれている。
私に同じ事が出来るだろうか?人の親切と優しさに触れる度にそう思う。

夜が深くなり、寝てるイーラを起こさないように、小さな声で会話する。
尽きない話と、抑制された笑い声。男ふたりの静かで心地いい時間。
いつの間にか憂鬱な気分などすっかり晴れて、今を楽しんでいた。





次は>『セルゲイタウン』モスクワ その6 / Москва(6)




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