スペインでこけました(前編)

フランスのバイヨンヌ Bayonne から高速道路でスペインに入ると路面の状態が一気に悪くなる。アスファルトのひび割れ、深い轍、粗い補修跡、きつい勾配に強い雨と風、料金所を超えたポイントで晴れ間がのぞき、少し休憩。

リアタイヤが限界に近い。荷物満載タンデムで想定していたよりも磨耗が早く、ほぼ直線でざらついたドイツのアウトバーンで一気に削られた感じ。タイヤのセンターが平らになっている。マドリードでタイヤを交換する予定。マドリードまではあと数百Km 、慎重に走る。



スペインに入って100Km くらいの間に事故を3回見た。反対車線でトレーラーがガードレールに突っ込み大破、少し進むと乗用車がスリップして反対方向を向いていて、さらに進むとガードレールに乗り上げた車とボンネットが潰れた車。あとの二つは緊急車両が到着していたので事前に速度を落としてゆっくりと通過。雨の影響で走っている車は全体的に車速を落として走行しているが、強い風に煽られたのか、みんな南側に突っ込んでいた。
バイクで大陸を走り出して3か月を超えるがこんな日は初めて。スペインでは事故が多いのか、たまたまなのかは分からない。いずれにしても立て続けに事故現場を見て一気に緊張感が高まる。スペインは今まで通過してきた国とは随分と雰囲気が違う。

フランスのふわふわしたアスファルトの感触とは打って変わってスペインのアスファルトはハードでゴツゴツとしている。切って貼っての補修跡ではタイヤが弾かれ、轍ではハンドルが振られる。不安定なアスファルトはロシアのそれとも少し異なり、特別な注意が必要。事故の多さは路面の影響が大きいのかもしれない。

N-622 からマドリードへ向かうA-1 への合流地点、長い登りのカーブ。アスファルトが古いのか、さらに路面の状態が悪くなっている。ボロボロの路面にまだらな補修、リアタイヤから嫌な振動が伝わる。グリップの感触を確かめながら慎重に進む。
右カーブ登りの頂上、A-1 に入る直前に異常な感覚があった。次の瞬間にリアが横滑り、立て直す間もなく車体が右側に傾きそのまま横転。体がバイクから離れ、流れる景色の中で遠ざかるバイクの車体を見ながら唸るようなエンジン音を聞く。こけたっ!

周りに車がないことは確認していた。奈奈は?
「イタタタッ」
バイクと共に右側に倒れ、ガードレールの近くでうずくまっている。バイクは完全に横倒し、安全装置が作動してエンジンは止まっている。後続車を確認するとこちらの転倒に気付いたようでトレーラーがゆっくりと坂を上がってきている。ここはちょうど合流地点の一旦停止側、おそらく後ろから突っ込まれることはない。とりあえずバイクを残して奈奈と共に安全な場所に避難。

「私は大丈夫、明生は?」
「大丈夫」
俺は無傷。奈奈は脇腹を打ったようで苦しがっている。何台かの車がバイクの横を素通りし走り去っていくが、赤い車に乗った男が停車してこちらの様子を伺っている。
ヘルメットを脱ぎ、冷静になる。奈奈が無事でよかった。

バイクに近づくと赤い車の男が車から降りて近づいてくる。バイクを起こすのを手伝ってくれるようだ。ハザードランプを点けた赤い車が安全を確保してくれている。左側のスタンドを出し、その男の力を借りてバイクを起こす。バイクは無事に起きたが何かがおかしい。よく見るとハンドルが後方に下がっている。男に礼を言うと男は車に戻るが、すぐに発進せずに車を止めたまま俺らを見守ってくれている。ハンドルを力ずくで正規の位置に戻す。なんとか走れそう。安全装置を解除し、慎重にエンジンを掛けてバイクを路肩の安全な場所に移動する。赤い車の男に親指を立てて「OK」とジェスチャーすると男はゆっくりと車を動かす。合掌して「ありがとう」と言うと男は頷いて走り去って行った。ほんまに助かった、ありがとう。

そのまま少し休憩、落ち着こう。
あ〜、こけた。オフロードのぬかるみや深い砂利、ダートでは何回もこけてるけどほぼ立ちゴケに近く、走行中まともにこけたのは日本での走行を含めてこれが初めて。大事に至らなかったのがせめてもの救い。周りを巻き込んだり巻き込まれたりしなくて本当に良かった。

少しするとパトカーが近づいてきて、警官が中からこちらの様子を伺う。親指を立てて「OK」の意思表示をしても近くを離れない。雨が降り、寒さに奈奈が震える。

数百メートル先にサービスエリアがあることを示す道路表示が見える。奈奈もそのことを俺に伝え、とりあえずそこに行こう、と言う。車体をチェックして転倒で崩れた積み荷を正し、エンジンを掛けてハザードを出し、路肩を進む。
リアブレーキペダルの位置がおかしい。すぐにバイクを止めて確認するとペダルの位置が下がっている。バイクを降りるとパトカーが前に停まり、警官が歩いて近づいてくる。
警官もすぐそこにパーキングがあるからそこに行け、と言う。ブレーキペダルの位置がおかしいが踏み込むとブレーキは効くことを確認し、もう一度エンジンを掛けてパーキングを目指す。パトカーが後から付いてくるがそのまま追い越していく。

慎重に路肩を進みパーキングに到着。ガソリンスタンドとカフェが併設されている大きなサービスエリア。パトカーの前にバイクを止める。バイクを降りても警官は近づいてこない。色々と面倒なので今はそれでいい。

奈奈がガタガタと震えている。こけたショックか、怪我が思ったよりひどいのか、大丈夫、と言うが、強がりなところもあるからちょっと心配。とりあえずカフェに入ってあったかいコーヒー飲もう。

入ったカフェがこれまでのカフェとは雰囲気が全然違ってああ、スペイン!といった感じ。この国は本当に独特の空気で楽しいが今は楽しんでる余裕がない。
「コーヒー」が通じず何度もアクセントや言い方を変えてやっと注文が通った。騒がしく活気のある店内で熱々のコーヒーを飲む。

今日行く予定のパレンシア Palencia まであと200Km 、宿の予約をしているが、諦めて近くの宿に行くことにする。オフラインで動く地図アプリには宿も表示されるので、その中から10Km 先の宿を選び、そこを目的地にする。とりあえずあとのことはその宿で考えよう。
コーヒーを飲み終えた頃には奈奈の震えは止まっていた。

バイクに戻り、エンジンを掛け、再び走り出す。まだハンドルが歪んでいる気がする。曲がってるかも。
すぐに高速を降りて下道をゆっくり走る。雨は上がり、風もおさまってきた。






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