『別れ』 ウラジオストク その3 / Владивосток (3)

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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5月27日 火曜日


ここはウラジオストク港の保税倉庫。もので溢れるこの場所に、私のXL1200、そして藤本さんのXR250とニシさんのSUPER CUB 90が無造作に置かれていた。
そう、5月27日火曜日の17時、バイクの通関手続きが、無事終わったのだ。












このナイスガイ、ディマが私達3人のバイクの通関手続きをしてくれた。
3,000ルーブルを手渡したが、バイクの保管料などの諸費用込みの金額なので、実質ボランティアのようなものだ。
詳しくは分からないが、どうもディマはカスタム、日本でいう税関職員か、それに近い立場の人間のようだ。いわゆる通関業者、ではない。
いずれにせよ、ウラジオストク到着の翌々日にバイクを出せるなんて、前代未聞だろう。そんな話は聞いた事がない。
ニシさんによると、これでも1日損していたのだという。ルーシ号でBL、バイクの荷受書をもらっていなかったのがその理由だ。私と藤本さんはもらっていたのだが・・・BLがあれば、昨日、つまりウラジオストク到着翌日にはバイクを出せていたのだ。そうなればまさに最速。
自称オタクの情報収集力に脱帽だ。

そのオタクのニシさんは、早速CUBのキックペダルを踏み込んでいる。
「先に出発しますよ。おふたりと違って、わたしはカブなんでね」
CUBのエンジンが掛かるとニシさんは颯爽と走り去って行った。
私と藤本さんは、ホテルでバイクに荷物を積んだ後で、合流する事にした。

藤本さんがXRに火を入れる。私も続いてXLのエンジンを始動する。
久しぶりのXL1200の排気音。心が震える。
ディマが私に近づき、英語で「どこまで行くんだ?」と聞いてきた。
私が「モスクワだ」と言うと、ディマは真剣な顔でこう言った。
「No way」
どういう意味でこう言ったのかは分からない。驚きの表現ではなさそうだ。
単純に「道が無い」という事だろうか。
別れ際に、ディマにありったけのサンキューと、またよろしくな、と言った。伝わっただろうか。ディマ、ほんまにありがとうな。

ふたりで走り出す。保税区域を出て、先導する藤本さんの後について螺旋状の坂を上っていく。その先は見慣れたターミナル前の大通りだ。この3日で街をバイクで走るイメージは出来ている。
螺旋状の坂を登り終えて大通りに出る。CUBだ。ニシさんに追いついた。
車の流れに乗り、加速しようとスロットルを開けようとした瞬間、目の前に突然、制服姿の男が飛び出してきた。私達に向かって何か大声で叫んでいる・・・警官だ!
前を走っていたニシさんは、両手を広げた警官の脇をスルリと抜ける。あっ、逃げた!
これにキレた警官が私に飛び掛かろうとする。藤本さんが停車し、私も観念してバイクを止める。

何か叫んでいる警官に、私は「インターナショナルライセンス!」と言って国際免許証を提示し、黙らせようとしたが、警官の叫びは止まらない。
まだ、何も悪い事はしてないぞ、そう思うと私達の行く手を阻む警官に対して、怒りがこみ上げてきた。雨が降っている。
「ドーシチ!ドーシチ! дождь ! дождь ! (雨!雨!)」
「パチムー! почему !(なんでやねん!)」
怒りが私の何かの扉を開いたようだ。うろ覚えだったロシア語がポンポン出てくる。
警官はまだ何か叫んでいるが、何を言っているのか分からない。私も怒鳴っているので、聞き取れないのだ。黙って聞いたら、一発で分かった。
「ドォーキュメェーントォー!」
ドキュメントだ。しかし、何の事かが分からない。何かを要求しているようだが、金ではなさそうだ。
私はとりあえずパスポートやビザやホテルの領収書などの書類を警官に渡す。
すると、警官は黙って受け取り、ひと通り書類に目を通し、私に返す。
そうか、ドキュメントは身分証明書のことか、とひとつ勉強になり、藤本さんに説明する。藤本さんもドキュメントを警官に見せるが、もういい、といった態度で、無事、私と藤本さんは解放された。
警官は私に向かって、さっき逃げた奴は知り合いか?と聞いてきたが、私は日本語で
「知るかぁ!」と答えた。
藤本さんの「ほな行こか」の合図で、私たちは再び走り出した。

途中で藤本さんと別れ、ホテルに戻る。
あらかじめ段取りをしていたので、スムーズにバイクに荷物を積載出来た。
さあ、藤本さんと合流だ。

藤本さんのホテルに着く。藤本さんも準備万端のようだ。
「ニシさんほんまに先行ったで〜。ゆっくり行ったらいいのになぁ〜」と藤本さんがつぶやく。
私もそう思う。ニシさんの無事を祈ろう。

まず、「国道M60」を目指して走らなければならないが、どっちに行ったらいいのか分からない。藤本さんは分かっているようで、「M60はあっこの道と繋がってるみたいやで」と言っている。
とりあえず、藤本さんに付いて行こう。この人は、バイク旅の達人だ。
エンジンを始動し、走り出す。さあ、いよいよ出発だ。





しばらく坂を上っていくと、交通量の多い道が見えてきた。路面表示を見るとM60と書かれている。「国道M60」だ!
藤本さんが目で合図をくれる。M60に入るが、車が多く、流れも速い。
周りに注意して走っていると、ガソリンスタンドの看板らしきものが見えた。藤本さんに合図を送り、ガソリンスタンドらしきところに進入する。間違いない、ガソリンスタンドだ。
藤本さんとふたりでバイクを止めるが、ロシアのガソリンスタンドのシステムが分からない。セルフ給油のようだが、金はどこにどうしたらいい?
辺りを見渡すと、受付のような建物がある。受付の女に聞くと、金を要求している。どうやら料金先払いのようだ。ガソリン満タンのロシア語が分からず、藤本さんとお互いのガソリン残量を確認し、だいたいこれくらいやろ、という金額を受付の女に払う。それぞれのバイクにガソリンを入れるが、思っていたよりも私の方が多く入り、その事を藤本さんに謝る。
「そんなんええよええよ」と藤本さんは言ってくれるが、本当に申し訳ない。
出会ってから今まで、世話になりっぱなしだ。この借りはいつか返そう、と、心の中で誓う。
ガソリンスタンドの外はものすごい車の量で、凄まじい流れの速さだ。ガソリンスタンドを出てその凄まじい流れに乗る。これがロシアか、と心の中で呟く。





藤本さんとこうして走るのも、今日、この瞬間が最初で最後かも知れない。そう思うと、この数日間ともに過ごした時間が、まさしく走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
藤本さんと出会えてよかった、ルーシ号で出会ったのが藤本さんでよかったと、心から思う。
もちろんニシさんにも感謝だ。あなたがいなければ、今、こうしてバイクで走る事は出来なかっただろう。あなたはワールドツーリングの希望の道を開いた。今後何人もの日本人ライダーがこの道に続くだろう。

しばらくすると、藤本さんが先に行け、と合図するように速度を落とす。慎重に運転していきたいのだろう。そう、ここまで来て無理をする必要はない。
別れの時間だ。私は振り返って藤本さんに手を振り、藤本さんはそれに応える。
ありがとう藤本さん。またどこかで会いましょう。それまで無事で!

私はスロットルを開け、XL1200が加速する。
目指すは次の街、750Km先のハバロフスクだ。





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