2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
__________________________________________
午後7時過ぎにウラジオストクを出発して数時間、国道M60を走り続けている。もう周りには自分以外に走っている車はなく、すれ違う車もほとんどない。
街灯もなく、真っ暗闇の中、ヘッドライトの光だけを頼りに、未知の大地を走っている。
所々未舗装のダートだ。少し雨が降っていて、道がぬかるむ。
5月だが真冬のように寒く、体が震えているが、意識は鮮明だ。運転に集中出来ている。
ガソリンスタンドが見える。どうやらガソリンスタンドは地図通りの場所にあるようで、少し安心した。
オクタン価は95、92、88があるが、95を入れておこう。少しでもオクタン価が高い方がいいだろう。タンクに入るガソリンの量を頭で計算して、受付の男に渡し、給油する。過不足なくタンクが満タンになった。計算通りだ。
砂砂利の広い敷地にガソリンスタンドがぽつんとあるが、すぐそばに別の建物がある。カフェ кафе だ。明かりが灯っている。少し休憩するか・・・。
中に入ると、若い男が一人。店員のようだ、他に客はいない。
店員は少し警戒しているように見えたが、言葉がわからないので「ハイ」と言って右手を挙げ、会釈だけしておいた。
とりあえずテーブルの席に座って、地図を広げる。
バイクの旅で問題なのは、ガソリンだ。XL1200では、一気に走れるのは300〜400Km程度だろう。ガソリンスタンドの場所は常に気にしておかなくてはならない。カフェの中は広いが、暖房が効いていて、暖かい。
地図を見ていると、店員が私のそばにやってきた。中に入ってまだ何も注文していなかったのだ。何かを注文する気もなかったのだが・・・。
店員の方に目を向けると、ティーカップを持っている。そのティーカップを私の目の前に置き、何も言わず笑顔で「どうぞ」の仕草をしている。熱々の飲み物だ。ありがたい。
金を払おうとするが、店員は「ニェット」と言って、手を振っている。金はいらないのか。
これは何だ、とティーカップを指差すと、チャイだ、と言っている。なんていい奴なんだ。
私は「スパシーバ」と言って、チャイという名の熱々の飲み物を頂く。
紅茶だ、しかもめちゃめちゃ甘い。私は甘党だが、紅茶をこんなに甘くした事はない。 体の震えが少しおさまった。ほっとして神経が和らぎ、自然と笑顔になる。
店員に感謝の気持ちも込めて「ブイラ オーチン フクースナ」と言うと、店員は大笑いし、私もそれを見て笑う。その場の空気が一気に暖かくなった。
チャイを飲みながらしばし店員と談笑する。お互い言葉は分からないのだが、私が日本から来て、モスクワまでバイクで行く、というのは伝わったようだ。
私がタバコに火を点けると、日本のタバコか?と聞いてきた。私は「ニェット」と言ってタバコの箱を見せる。 トロイカ тройка だ。
ウラジオストクのマガジン магазин(売店)で買ったひと箱11ルーブル、40円ほどのロシアの安タバコだ。
それを見て店員は大爆笑する。なんで日本人がそんなタバコ吸ってんねん、といった感じだが、私はトロイカの事を気に入っている。
「俺はこれが好きやねん」のジェスチャーをすると、彼は笑って泣きながら2杯目のチャイをご馳走してくれた。
身も心も温まった私は、親切な店員に別れを告げ、再び暗闇に向けて走り出した。
5月28日 水曜日
走り続けているうちに日付が変わった。雨も強くなり、キャンプをするタイミングを完全に見失っている。
明かりが見えてきた。ガソリンスタンドだ。ガソリンを入れたいが、もう寒さで限界だ。まずはカフェに入って休憩しよう。
XL1200を適当に止め、カフェに飛び込む。とりあえずテーブル席に座るが、ガタガタと震えが止まらない。寒すぎる。
店員に「チャイ」と言い金を払うと、すぐに熱々のチャイが出てきた。これがまためちゃくちゃ甘い。ロシア式だな。5ルーブルだから20円ほどか、安すぎる。
熱々のチャイを飲み干したが、冷たい雨の中を走り続けていたせいで、体が芯から冷えているようだ。なかなか震えがおさまらない。じっと我慢してやり過ごすしかない。
カフェの中には私と店員以外にもうひとり、制服姿の男がいた。 奥の席に座っているその男は、じっと私を見つめている。警官ではなさそうだ。セキュリティー、ガードマンか。
寒さに耐えながらじっとしていると、そのセキュリティーの男が近づいてきて、私に向かって何か言っている。よく見ると腰に警棒と拳銃を付けている。この辺りは治安が悪いのだろう。バイクを指差して、どうやら出て行けと言っているようだ。
雨の中再び走り出すのは気が重かったが、仕方がない。不審者を追い出すのも彼の仕事だ。
私は無言でカフェを出て、XL1200に跨がろうとした。すると、セキュリティーの男が身振り手振りで何やらジェスチャーしている。どうやら「こっちだ」と言っているようだ。
私はセキュリティーの男に促されるがままXL1200を動かした。 なんと 彼はバイクをカフェの軒下に誘導してくれたのだ。雨が掛からないこの場所に。
XL1200をカフェの軒下に止めると、彼は英語で「ここならカフェの中からバイクが見えるだろう」と言って、私を温かいカフェの中に連れ戻した。なんて親切なロシア人なんだ。
私がさっきの席に座ると、彼は私の向かいに座った。 名前は「ジョン」だ。52歳のロシア人で、英語が喋れる。
ジョンが店員に向かって何かを言うと、店員は笑ってそれに応えている。店員は若い男で、ノリが良さそうだ。ジョンはにっこりと微笑んで私を見ているが、何ていい笑顔なんだろうかとしばし見惚れる。
ふと気付くと、いつの間にか体の震えはすっかりおさまっていて、寒かった事すら忘れていた。
しばらくジョンと喋っていると、突然店内が真っ暗になった。停電だ。
ジョンがおもむろに席を立ち、店の奥に消えていった。私は呆然としていたが、しばらくするとジョンがロウソクを持って戻って来た。店員の男もロウソクを持って出て来て、何事もなかったかの様にテーブルにロウソクを置いていく。この辺りではよくある事なのだろうか。
ロウソクの火はほのかに温かく、薄暗い店内で光と影がゆらゆらとうごめいている。幻想的な雰囲気で満たされたカフェは、まるで夢のように非現実的な空間になっている。綺麗だ・・・。
ジョンはロウソクを指差して、「シビエーチュカ」と言った。そう、ロシア語の勉強だ。 コップはクルーシュカ、砂糖はサーカル・・・。(※追記 сахар 正確にはサーハルに近い / 2016.04.01)
ゆらゆら揺れるロウソクの明かりを頼りにメモを取りながらジョンの話を聞いていると、急に店が明るくなった。停電が終わったのだ。 すると目の前にはスープとパンがある。これは何だと店員に聞くと、ジョンを指差して笑っている。
ああ、さっきのはこれの事だったのか。ジョンが店員に準備させたのだ、私の食事を。
私はそれが分かり、ジョンにいいのかと聞く。ジョンはにっこりと微笑み、早く食べるように促す。私はスパシーバ、と言って温かいスープとパンを頂く。本当にありがたい。
その後もロシア語の勉強は続いた。ジョンも真剣だ。私が「何も知らない」事が分かったからだろう。おそらくこのまま旅を続けるのは危険だ、と思ったのかも知れない。
1から10の数字、まっすぐ・右・左、はい・いいえ、良い・悪い、壊れる・直す、日本・日本人、ロシア・ロシア人、私・あなた、おはよう・こんにちは・こんばんは、昨日・今日・明日、友達、寝る、踊る、テント、道、行く、痛い、断る・・・。
ジョンは英語を真ん中に置いて、バイクで旅をするのに必要な数え切れないほどのロシア語と、地図の見方や地名の読み方を私に教えてくれた。 私はその全てをメモに取り、いくつかはその場で覚えた。
ジョンに聞くと、ウラジオストクからモスクワまで、車で30日は掛かると言う。道は繋がっているようだが、ノンストップで行って帰って2ヶ月か。モスクワまで行けるだろうか・・・。
ふと時計を見ると、5時になっていた。ここに来て5時間近く喋っていたのか。 お互いのこれまでの人生や家族の話もして、濃密な時間だった。
「この近くでキャンプ出来るところはないか?」とジョンに尋ねる。寝ずに走ってもいいのだが、ハバロフスクに着く前に、どうしてもキャンプ初体験をしておきたかったのだ。
するとジョンはついて来い、と言って席を立ち、カフェの外に私を連れ出した。
カフェを出るとすぐ目の前に縁石に囲まれた芝生がある。花壇のようにも見えるそのスペースを指差して、ジョンは「ここでテントを張れ」と言って、こう続けた。
「アキオと、アキオのバイクは、俺が守る」
ジョンは腰に付けた拳銃をポンと叩き、「安心しろ、俺はセキュリティーだ」と言ってニッコリと微笑んだ。 そう、この場所ならカフェの中からテントとXL1200が見える。
なんて奴なんだ、ジョン。まるで仏様じゃないか。
早速テントを張り、寝る準備をする。セッティングが出来て、あとはもう寝るだけだ。 寝る前にカフェに戻ってジョンに声を掛けよう。
ジョンは、朝になると別の男と交代するが、アキオの事は言っておくから安心しろ、と言っている。ジョンがいなくなる前に起きれるといいが・・・。
私はジョンに教えてもらったロシア語でこう言って、ひとまずジョンに別れを告げた。
「スパッチ! спать !(寝る!)」
今、目の前にある現実が信じられなかった。なにか、ものすごい事が自分の身に起こっている様な気がした。こんなに安心感のあるロシア初キャンプも、そうそうないだろう。
非日常の始まりに興奮してなかなか寝付けないが、そうも言ってられない。起きたらまたハードな旅が延々と続くのだ。少しでも寝なくては。 とりあえず・・・
スパッチ!
次は>『導き』 ハバロフスク / Хабаровск
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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午後7時過ぎにウラジオストクを出発して数時間、国道M60を走り続けている。もう周りには自分以外に走っている車はなく、すれ違う車もほとんどない。
街灯もなく、真っ暗闇の中、ヘッドライトの光だけを頼りに、未知の大地を走っている。
所々未舗装のダートだ。少し雨が降っていて、道がぬかるむ。
5月だが真冬のように寒く、体が震えているが、意識は鮮明だ。運転に集中出来ている。
ガソリンスタンドが見える。どうやらガソリンスタンドは地図通りの場所にあるようで、少し安心した。
オクタン価は95、92、88があるが、95を入れておこう。少しでもオクタン価が高い方がいいだろう。タンクに入るガソリンの量を頭で計算して、受付の男に渡し、給油する。過不足なくタンクが満タンになった。計算通りだ。
砂砂利の広い敷地にガソリンスタンドがぽつんとあるが、すぐそばに別の建物がある。カフェ кафе だ。明かりが灯っている。少し休憩するか・・・。
中に入ると、若い男が一人。店員のようだ、他に客はいない。
店員は少し警戒しているように見えたが、言葉がわからないので「ハイ」と言って右手を挙げ、会釈だけしておいた。
とりあえずテーブルの席に座って、地図を広げる。
バイクの旅で問題なのは、ガソリンだ。XL1200では、一気に走れるのは300〜400Km程度だろう。ガソリンスタンドの場所は常に気にしておかなくてはならない。カフェの中は広いが、暖房が効いていて、暖かい。
地図を見ていると、店員が私のそばにやってきた。中に入ってまだ何も注文していなかったのだ。何かを注文する気もなかったのだが・・・。
店員の方に目を向けると、ティーカップを持っている。そのティーカップを私の目の前に置き、何も言わず笑顔で「どうぞ」の仕草をしている。熱々の飲み物だ。ありがたい。
金を払おうとするが、店員は「ニェット」と言って、手を振っている。金はいらないのか。
これは何だ、とティーカップを指差すと、チャイだ、と言っている。なんていい奴なんだ。
私は「スパシーバ」と言って、チャイという名の熱々の飲み物を頂く。
紅茶だ、しかもめちゃめちゃ甘い。私は甘党だが、紅茶をこんなに甘くした事はない。 体の震えが少しおさまった。ほっとして神経が和らぎ、自然と笑顔になる。
店員に感謝の気持ちも込めて「ブイラ オーチン フクースナ」と言うと、店員は大笑いし、私もそれを見て笑う。その場の空気が一気に暖かくなった。
チャイを飲みながらしばし店員と談笑する。お互い言葉は分からないのだが、私が日本から来て、モスクワまでバイクで行く、というのは伝わったようだ。
私がタバコに火を点けると、日本のタバコか?と聞いてきた。私は「ニェット」と言ってタバコの箱を見せる。 トロイカ тройка だ。
ウラジオストクのマガジン магазин(売店)で買ったひと箱11ルーブル、40円ほどのロシアの安タバコだ。
それを見て店員は大爆笑する。なんで日本人がそんなタバコ吸ってんねん、といった感じだが、私はトロイカの事を気に入っている。
「俺はこれが好きやねん」のジェスチャーをすると、彼は笑って泣きながら2杯目のチャイをご馳走してくれた。
身も心も温まった私は、親切な店員に別れを告げ、再び暗闇に向けて走り出した。
5月28日 水曜日
走り続けているうちに日付が変わった。雨も強くなり、キャンプをするタイミングを完全に見失っている。
明かりが見えてきた。ガソリンスタンドだ。ガソリンを入れたいが、もう寒さで限界だ。まずはカフェに入って休憩しよう。
XL1200を適当に止め、カフェに飛び込む。とりあえずテーブル席に座るが、ガタガタと震えが止まらない。寒すぎる。
店員に「チャイ」と言い金を払うと、すぐに熱々のチャイが出てきた。これがまためちゃくちゃ甘い。ロシア式だな。5ルーブルだから20円ほどか、安すぎる。
熱々のチャイを飲み干したが、冷たい雨の中を走り続けていたせいで、体が芯から冷えているようだ。なかなか震えがおさまらない。じっと我慢してやり過ごすしかない。
カフェの中には私と店員以外にもうひとり、制服姿の男がいた。 奥の席に座っているその男は、じっと私を見つめている。警官ではなさそうだ。セキュリティー、ガードマンか。
寒さに耐えながらじっとしていると、そのセキュリティーの男が近づいてきて、私に向かって何か言っている。よく見ると腰に警棒と拳銃を付けている。この辺りは治安が悪いのだろう。バイクを指差して、どうやら出て行けと言っているようだ。
雨の中再び走り出すのは気が重かったが、仕方がない。不審者を追い出すのも彼の仕事だ。
私は無言でカフェを出て、XL1200に跨がろうとした。すると、セキュリティーの男が身振り手振りで何やらジェスチャーしている。どうやら「こっちだ」と言っているようだ。
私はセキュリティーの男に促されるがままXL1200を動かした。 なんと 彼はバイクをカフェの軒下に誘導してくれたのだ。雨が掛からないこの場所に。
XL1200をカフェの軒下に止めると、彼は英語で「ここならカフェの中からバイクが見えるだろう」と言って、私を温かいカフェの中に連れ戻した。なんて親切なロシア人なんだ。
私がさっきの席に座ると、彼は私の向かいに座った。 名前は「ジョン」だ。52歳のロシア人で、英語が喋れる。
ジョンが店員に向かって何かを言うと、店員は笑ってそれに応えている。店員は若い男で、ノリが良さそうだ。ジョンはにっこりと微笑んで私を見ているが、何ていい笑顔なんだろうかとしばし見惚れる。
ふと気付くと、いつの間にか体の震えはすっかりおさまっていて、寒かった事すら忘れていた。
しばらくジョンと喋っていると、突然店内が真っ暗になった。停電だ。
ジョンがおもむろに席を立ち、店の奥に消えていった。私は呆然としていたが、しばらくするとジョンがロウソクを持って戻って来た。店員の男もロウソクを持って出て来て、何事もなかったかの様にテーブルにロウソクを置いていく。この辺りではよくある事なのだろうか。
ロウソクの火はほのかに温かく、薄暗い店内で光と影がゆらゆらとうごめいている。幻想的な雰囲気で満たされたカフェは、まるで夢のように非現実的な空間になっている。綺麗だ・・・。
ジョンはロウソクを指差して、「シビエーチュカ」と言った。そう、ロシア語の勉強だ。 コップはクルーシュカ、砂糖はサーカル・・・。(※追記 сахар 正確にはサーハルに近い / 2016.04.01)
ゆらゆら揺れるロウソクの明かりを頼りにメモを取りながらジョンの話を聞いていると、急に店が明るくなった。停電が終わったのだ。 すると目の前にはスープとパンがある。これは何だと店員に聞くと、ジョンを指差して笑っている。
ああ、さっきのはこれの事だったのか。ジョンが店員に準備させたのだ、私の食事を。
私はそれが分かり、ジョンにいいのかと聞く。ジョンはにっこりと微笑み、早く食べるように促す。私はスパシーバ、と言って温かいスープとパンを頂く。本当にありがたい。
その後もロシア語の勉強は続いた。ジョンも真剣だ。私が「何も知らない」事が分かったからだろう。おそらくこのまま旅を続けるのは危険だ、と思ったのかも知れない。
1から10の数字、まっすぐ・右・左、はい・いいえ、良い・悪い、壊れる・直す、日本・日本人、ロシア・ロシア人、私・あなた、おはよう・こんにちは・こんばんは、昨日・今日・明日、友達、寝る、踊る、テント、道、行く、痛い、断る・・・。
ジョンは英語を真ん中に置いて、バイクで旅をするのに必要な数え切れないほどのロシア語と、地図の見方や地名の読み方を私に教えてくれた。 私はその全てをメモに取り、いくつかはその場で覚えた。
ジョンに聞くと、ウラジオストクからモスクワまで、車で30日は掛かると言う。道は繋がっているようだが、ノンストップで行って帰って2ヶ月か。モスクワまで行けるだろうか・・・。
ふと時計を見ると、5時になっていた。ここに来て5時間近く喋っていたのか。 お互いのこれまでの人生や家族の話もして、濃密な時間だった。
「この近くでキャンプ出来るところはないか?」とジョンに尋ねる。寝ずに走ってもいいのだが、ハバロフスクに着く前に、どうしてもキャンプ初体験をしておきたかったのだ。
するとジョンはついて来い、と言って席を立ち、カフェの外に私を連れ出した。
カフェを出るとすぐ目の前に縁石に囲まれた芝生がある。花壇のようにも見えるそのスペースを指差して、ジョンは「ここでテントを張れ」と言って、こう続けた。
「アキオと、アキオのバイクは、俺が守る」
ジョンは腰に付けた拳銃をポンと叩き、「安心しろ、俺はセキュリティーだ」と言ってニッコリと微笑んだ。 そう、この場所ならカフェの中からテントとXL1200が見える。
なんて奴なんだ、ジョン。まるで仏様じゃないか。
早速テントを張り、寝る準備をする。セッティングが出来て、あとはもう寝るだけだ。 寝る前にカフェに戻ってジョンに声を掛けよう。
ジョンは、朝になると別の男と交代するが、アキオの事は言っておくから安心しろ、と言っている。ジョンがいなくなる前に起きれるといいが・・・。
私はジョンに教えてもらったロシア語でこう言って、ひとまずジョンに別れを告げた。
「スパッチ! спать !(寝る!)」
今、目の前にある現実が信じられなかった。なにか、ものすごい事が自分の身に起こっている様な気がした。こんなに安心感のあるロシア初キャンプも、そうそうないだろう。
非日常の始まりに興奮してなかなか寝付けないが、そうも言ってられない。起きたらまたハードな旅が延々と続くのだ。少しでも寝なくては。 とりあえず・・・
スパッチ!
※この写真はモスクワからの復路で撮ったものです。 ジョンは私に、ロシアバイク旅で必要なロシア語を、全て教えてくれていたのです。 そのロシア語を駆使して、私はその後の様々な困難を乗り越えていきました。 あなたのおかげで無事に帰って来る事が出来たのです。 出会っていなければ、どうなっていた事か・・・。 ジョン、スパシーバ! |
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