2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月15日 日曜日
朝。テントをたたんで走り出す。テントはやっぱりめんどくさい。
快調に進むが、大都市ウファ Уфа 手前の検問で警察に捕まる。スピード違反だ。
幹線道路は速度無制限のようなものだが、街の出入り口付近はそうではなく、どこから速度が制限されるのかが未だに分からない。警官に安タバコのトロイカを見せて解放される。
道はほぼアスファルトが続くが、たまに出てくるダートが柔らかい土でズルズル滑り、走りにくい。こけないように慎重に進む。
この辺りからモスクワまでは何本かのルートがあるが、地図を見て一番距離が短そうな国道「M5」を選ぶ。次に目指すは大都市サマラ Самара だ。
途中ガソリンスタンドで給油していると、家族連れの男が話し掛けてきた。ウラジオストクから走ってきたと言うと目を丸くして驚いている。
ここまでどのくらい日数が掛かったか聞かれたので指折り数えてウラジオストクから19日、ハバロフスクから数えると12日だと答えるとその男は目をキラキラと輝かせて英語でこう言った。
「You are a hero!」
父親がこう言ったせいか、彼の小さな子供たちの目も輝く。照れ臭かったが、ロシアの道の事情を知っている彼にとっては驚くべき事なのだろう。
「Hero!」と言って親指を立てる彼に手を振り、幹線に戻る。
その後は快調に走り続け、だんだんと夜が更けていく。
今日の目的地、サマラはもう目の前だ。おそらくモスクワに着くのは明日。藤本さんに電話しよう。
路肩にXL1200を止める。藤本さんはロシアどころかユーラシア大陸を横断し、アメリカに渡る。会えるとすればモスクワだ。まだロシアにいるといいのだが・・・。
私はハバロフスクで7日、ノボシビルスクで3日間滞在していた。藤本さんがノンストップで進んでいたとすれば、私の前にいるはずだ。もしそうであれば、モスクワでのんびりしてくれていればいいのだが。或いは・・・。
私は夜通し走っていた。ロシア人も驚くペースでここまで来れている。どこかで藤本さんを抜かしている可能性もない事はない。もしそうならモスクワで藤本さんを待てる。きっとハバロフスクで出会ったヴィタリーが世話をしてくれるだろう。
藤本さんに電話をする。あ〜、ドキドキする。無事だろうか?元気にしているだろうか?まだロシアにいるだろうか?
何回かのコールの後、藤本さんが電話に出る。
藤本さんやっ!生きてるっ!そして元気っ!
電話で再会を喜ぶ。藤本さんのテンションがめちゃくちゃ高い。きっとこの調子で旅を続けているのだろう、あのとびきりの笑顔が目に浮かぶ。元気そうでひと安心だ。
私がモスクワまで1,000Kmの地点で多分明日着くと言うと藤本さんは驚く。藤本さんはモスクワまで一週間くらい掛かると言っている。どうやらいつの間にか、どこかで私は藤本さんを追い越していたようだ、おそらく夜だろう。きっと藤本さんがどこかでキャンプしている間に通り過ぎたのだ。
積もる話もあるが、モスクワでの再会を約束し、電話を切る。
やったー!藤本さんと会えるー!
意気揚々と走り出し、ガソリンスタンドで給油する。給油を終え、ガソリンスタンドに併設されたマガジン(売店)に行こうとするが、バイクが重い。何かがおかしい・・・。
XL1200は手で押しても前に進まない。仕方がないのでエンジンを掛けてマガジンの横まで慎重に進み、サイドスタンドを掛けて点検する。
おかしいのはおそらくホイールだ、何か引きずっている。フロントは問題ないのを確認し、リアタイヤを点検すると、絶望的な光景が目に飛び込んできた。
リアタイヤの側面が全面削れている。なんやねんこれ・・・。
リアフェンダーを覗き込むと、何やら大きな金属がタイヤに巻き込んでいるのが見える。リアフェンダーサポートだ!
ダート走行の振動でサポートとリアフェンダーを共締めしているボルトが緩み、リアフェンダーの裏からリアフェンダーを支えているごっつい金属、リアフェンダーサポートがずれてそれをタイヤが巻き込んだのだ。
緊急事態、荷物を全て降ろしてリアフェンダーの奥の方に挟まっているリアフェンダーサポートを取り出そうとするが、がっちり挟まってビクともしない・・・。
リアフェンダー周りのボルトを全て外してリアフェンダーをフリーにし、なんとかリアフェンダーサポートを取り出すが、リアフェンダーサポートは見事に変形している。
その場で修復を試みるが、出来る事は何もない。変形したリアフェンダーサポートを地面に叩きつけて整形するのがやっとだ。
何とかリアフェンダーサポートを元の位置に納め、リアフェンダーを復元する。タイヤはスムーズに転がるようになったが、いつバーストするか分からない。この場にとどまっていてもどうにもならないので降ろした荷物を再びXL1200に積載する。
キーをオンにするが、ヘッドライトが点かない。メーターも動かず、テールランプとウインカーも点灯しない。どうやらリアフェンダーサポートがタイヤに巻き込んだ際にリアフェンダーの裏側に沿って配線されている電線も巻き込まれていたようだ。
リアフェンダーを覗き込むと全ての配線がちぎれているのが確認出来た。最悪・・・。
サマラはもう目の前だが、おそらくこの街にはXL1200に装着出来るタイヤなどないだろう。モスクワまではあと1,000Kmだ。きっとモスクワまで行けばなんとかなる・・・。
「フィフティーフィフティー」
この言葉が頭に浮かんだ。いつバーストするか分からないこのタイヤで1,000Km走ってモスクワまで行く。無事に到着出来るかどうか、半々だ。
生きるか死ぬか、50対50、この時確かにそう思った。
瞬間的に訪れる危険は毎日だった。あっぶねー、死ねかと思った、という瞬間は1日に何度かあった。しかし、冷静に考えて生きるか死ぬかの道を選んで前に進むのはこれが初めてだ。そう、前に進むしかない。なぜかは分からないが、そう思った。
絶望的な気分だったが、気を取り直すのに時間は掛からなかった。
エンジンを掛け、恐る恐る、慎重に走り出す。ヘッドライトとテールランプが点灯せず、街灯もない、真の闇の中を進む。車体を左に傾けるとリアが滑る。やはり左側はグリップしない。極力まっすぐに走行しないといけない・・・。
何の為に旅をしているのだろう。モスクワに着いたところで何があるのだろう。
何でこんな危険な事をしているのだろうか・・・。
なんも考えんと気楽にいこう。考えてもしゃーない、なんとかなる・・・。
車体の挙動とリアタイヤに神経を集中させて、闇の中をひとり、黙々と進む。
モスクワまであと1,000Km 。
次は>『We are waiting for you in Korolev town』モスクワ / Москва
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月15日 日曜日
朝。テントをたたんで走り出す。テントはやっぱりめんどくさい。
快調に進むが、大都市ウファ Уфа 手前の検問で警察に捕まる。スピード違反だ。
幹線道路は速度無制限のようなものだが、街の出入り口付近はそうではなく、どこから速度が制限されるのかが未だに分からない。警官に安タバコのトロイカを見せて解放される。
道はほぼアスファルトが続くが、たまに出てくるダートが柔らかい土でズルズル滑り、走りにくい。こけないように慎重に進む。
この辺りからモスクワまでは何本かのルートがあるが、地図を見て一番距離が短そうな国道「M5」を選ぶ。次に目指すは大都市サマラ Самара だ。
途中ガソリンスタンドで給油していると、家族連れの男が話し掛けてきた。ウラジオストクから走ってきたと言うと目を丸くして驚いている。
ここまでどのくらい日数が掛かったか聞かれたので指折り数えてウラジオストクから19日、ハバロフスクから数えると12日だと答えるとその男は目をキラキラと輝かせて英語でこう言った。
「You are a hero!」
父親がこう言ったせいか、彼の小さな子供たちの目も輝く。照れ臭かったが、ロシアの道の事情を知っている彼にとっては驚くべき事なのだろう。
「Hero!」と言って親指を立てる彼に手を振り、幹線に戻る。
その後は快調に走り続け、だんだんと夜が更けていく。
今日の目的地、サマラはもう目の前だ。おそらくモスクワに着くのは明日。藤本さんに電話しよう。
路肩にXL1200を止める。藤本さんはロシアどころかユーラシア大陸を横断し、アメリカに渡る。会えるとすればモスクワだ。まだロシアにいるといいのだが・・・。
私はハバロフスクで7日、ノボシビルスクで3日間滞在していた。藤本さんがノンストップで進んでいたとすれば、私の前にいるはずだ。もしそうであれば、モスクワでのんびりしてくれていればいいのだが。或いは・・・。
私は夜通し走っていた。ロシア人も驚くペースでここまで来れている。どこかで藤本さんを抜かしている可能性もない事はない。もしそうならモスクワで藤本さんを待てる。きっとハバロフスクで出会ったヴィタリーが世話をしてくれるだろう。
藤本さんに電話をする。あ〜、ドキドキする。無事だろうか?元気にしているだろうか?まだロシアにいるだろうか?
何回かのコールの後、藤本さんが電話に出る。
藤本さんやっ!生きてるっ!そして元気っ!
電話で再会を喜ぶ。藤本さんのテンションがめちゃくちゃ高い。きっとこの調子で旅を続けているのだろう、あのとびきりの笑顔が目に浮かぶ。元気そうでひと安心だ。
私がモスクワまで1,000Kmの地点で多分明日着くと言うと藤本さんは驚く。藤本さんはモスクワまで一週間くらい掛かると言っている。どうやらいつの間にか、どこかで私は藤本さんを追い越していたようだ、おそらく夜だろう。きっと藤本さんがどこかでキャンプしている間に通り過ぎたのだ。
積もる話もあるが、モスクワでの再会を約束し、電話を切る。
やったー!藤本さんと会えるー!
意気揚々と走り出し、ガソリンスタンドで給油する。給油を終え、ガソリンスタンドに併設されたマガジン(売店)に行こうとするが、バイクが重い。何かがおかしい・・・。
XL1200は手で押しても前に進まない。仕方がないのでエンジンを掛けてマガジンの横まで慎重に進み、サイドスタンドを掛けて点検する。
おかしいのはおそらくホイールだ、何か引きずっている。フロントは問題ないのを確認し、リアタイヤを点検すると、絶望的な光景が目に飛び込んできた。
リアタイヤの側面が全面削れている。なんやねんこれ・・・。
これはモスクワのバイクショップ「Mr. Moto Salon」で撮った写真です。 このように(ピンボケ・・・)、リアタイヤの左側面がえぐられ、トレッド面まで削られています。 |
リアフェンダーを覗き込むと、何やら大きな金属がタイヤに巻き込んでいるのが見える。リアフェンダーサポートだ!
ダート走行の振動でサポートとリアフェンダーを共締めしているボルトが緩み、リアフェンダーの裏からリアフェンダーを支えているごっつい金属、リアフェンダーサポートがずれてそれをタイヤが巻き込んだのだ。
緊急事態、荷物を全て降ろしてリアフェンダーの奥の方に挟まっているリアフェンダーサポートを取り出そうとするが、がっちり挟まってビクともしない・・・。
リアフェンダー周りのボルトを全て外してリアフェンダーをフリーにし、なんとかリアフェンダーサポートを取り出すが、リアフェンダーサポートは見事に変形している。
その場で修復を試みるが、出来る事は何もない。変形したリアフェンダーサポートを地面に叩きつけて整形するのがやっとだ。
何とかリアフェンダーサポートを元の位置に納め、リアフェンダーを復元する。タイヤはスムーズに転がるようになったが、いつバーストするか分からない。この場にとどまっていてもどうにもならないので降ろした荷物を再びXL1200に積載する。
キーをオンにするが、ヘッドライトが点かない。メーターも動かず、テールランプとウインカーも点灯しない。どうやらリアフェンダーサポートがタイヤに巻き込んだ際にリアフェンダーの裏側に沿って配線されている電線も巻き込まれていたようだ。
リアフェンダーを覗き込むと全ての配線がちぎれているのが確認出来た。最悪・・・。
サマラはもう目の前だが、おそらくこの街にはXL1200に装着出来るタイヤなどないだろう。モスクワまではあと1,000Kmだ。きっとモスクワまで行けばなんとかなる・・・。
「フィフティーフィフティー」
この言葉が頭に浮かんだ。いつバーストするか分からないこのタイヤで1,000Km走ってモスクワまで行く。無事に到着出来るかどうか、半々だ。
生きるか死ぬか、50対50、この時確かにそう思った。
瞬間的に訪れる危険は毎日だった。あっぶねー、死ねかと思った、という瞬間は1日に何度かあった。しかし、冷静に考えて生きるか死ぬかの道を選んで前に進むのはこれが初めてだ。そう、前に進むしかない。なぜかは分からないが、そう思った。
絶望的な気分だったが、気を取り直すのに時間は掛からなかった。
エンジンを掛け、恐る恐る、慎重に走り出す。ヘッドライトとテールランプが点灯せず、街灯もない、真の闇の中を進む。車体を左に傾けるとリアが滑る。やはり左側はグリップしない。極力まっすぐに走行しないといけない・・・。
何の為に旅をしているのだろう。モスクワに着いたところで何があるのだろう。
何でこんな危険な事をしているのだろうか・・・。
なんも考えんと気楽にいこう。考えてもしゃーない、なんとかなる・・・。
車体の挙動とリアタイヤに神経を集中させて、闇の中をひとり、黙々と進む。
モスクワまであと1,000Km 。
次は>『We are waiting for you in Korolev town』モスクワ / Москва
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
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