『藤本周三』モスクワ その7 / Москва(7)

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月22日 日曜日

藤本さんが来るっ!

ウラジオストック以来、何日ぶりだろうか。まさかロシアで再会出来るとは思ってもいなかった。
藤本さんの事はヴィタリーやアンドレイ、セルゲイにも話していて、みんな歓迎してくれている。楽しみだ。
藤本さんと電話で話し、「M8」で合流する事を確認し、ヴィタリーの先導で出発する。

XL1200を運転するのも久しぶりだ。傷ついたリアタイヤを気にしてモスクワに着いてからずっと乗っていなかった。感覚が戻らないままモスクワの凄まじい環状線に突入する。



しばらく環状線をひた走り、「M8」に近づいていく。物凄い交通量の中、目を凝らしてバイカーを探すと・・・。
おったっ!藤本さんやっ!

藤本さんもこっちに気付くが、周りは凄まじい車の流れ。挨拶もほどほどにそのまま一旦落ち着ける場所まで走る。
先導するヴィタリーのペースが早い。XL1200のリアタイヤも気になるが、藤本さんもパンク修理したタイヤで走っている。どうやら藤本さんはペースを抑えているようだ、タイヤがかなり厳しいのだろう。

アクセルを開けてヴィタリーに並び、XL1200のリアタイヤと後ろを走る藤本さんを指さし
「カリソー!カリソー! колесо!колесо!(タイヤ!タイヤ!)」と叫ぶと、ヴィタリーはすぐに察してペースを落としてくれた。
しばらく走り、安全な場所に停車。
イエ〜イ!






久しぶりの再会!
と言っても、ウラジオストクを出てから一ヶ月足らずだが、とてつもなく長く、過酷な時間だった。そしてその過酷な時を経ての再会で感激もひとしおだ。

藤本さんは疲れてはいるが、相変わらず元気一杯、そして、相変わらずいい笑顔。少し痩せたかな。
積もる話もあるが、まずは・・・。





モスクワ最大のバイクショップ『Mr. Moto salon』でタイヤ交換。
XL1200もヤバイが藤本さんのXR250もヤバイ。
店内には中古の日本車が並ぶが我々の興味はタイヤだ。




早速XR250がピットイン。
古タイヤを支えにしてジャッキアップ。
藤本さんは出会った時と変わらず冗談を言い続けている・・・。
メカニックも慣れた手つきで作業を進め、無事にタイヤ交換が終わる。
藤本さんもひと安心、といった表情。
ここまではスムーズにいったのだが・・・。










お次はXL1200。

アクスルシャフトを抜くのにかなり時間が掛かった。
ハーレーは初めてのようで、勝手が分からず、インチ工具もなく、メカニックも苦戦しているようだ。
なんとかシャフトが抜けてホイールが車体から外れる。XR250の時とはえらい違いだ。






側面がえぐれたリアタイヤ。よくここまで持ってくれた。

新しいタイヤがホイールにはまり、ホイールを車体に取り付けるのだが、ここでもシャフトが入らず、メカニックが苦戦している。なかなか入らない・・・。
すると2メーター近い大男が大柄のハンマーを持ってXL1200に近づく。

「ハンマー持ってきよったで」
藤本さんが嬉しそうに笑う。
シャフトをハンマーで打ち込んでいくが、それでもなかなか入らず、メカニックの大男はひと呼吸置き、額の汗を拭ってこう言った。
「ハアァ〜レェ〜イ・・・」

藤本さんはその様子を見て驚き、
「BMWなんかスーっと抜けるで。日本車でも同じ、スルスル〜って入ってスルスル〜って抜けるはずやねん。あんなんありえへんわ」と言う。
そう、多分普通じゃない。どっかいがんでるんやろか?










なんとかシャフトが入った。
タイヤをクッションにして横倒し。謎。任せるしかない・・・。






ついでにマイスターアレクセイがエアクリーナーを清掃してくれ、作業終了。












これで無事走れる・・・かな?





帰りにクレムリ、赤の広場観光。










バイクで来ると、観光地もまた違って見える。






藤本さんのXR250。オフロードバイクで林道には向いているが、XL1200と比べれば随分非力だろう。荷物満載で250cc、ウラジオストクからモスクワまで1万Km、よく走っていると思う。
旅のバイクはやはりかっこいいが、並んで見るとアンドレイのバルカンが美しすぎる・・・。

カラリョフに戻り、セルゲイの家へ向かう。
セルゲイも藤本さんに会いたがっていたのだ。











ブリニー、イクラ、シャケ、そして200年前のポットで淹れたチャイを頂く。
セルゲイは英語が話せるので、藤本さんも英語で会話する。
藤本さんはほとんどロシア語を話さないみたいだ。バリショイ(デカイ)とハラショー(最高)で旅を続けてきたと言う。

「バリショイとハラショーだけ言うてたらええねん!ロシアの運ちゃん(長距離ドライバー)なんかバリショイ(トラックデカイ)言うたらみんな喜びよるねん!あとはハラショーでめっちゃ仲良くなってみんな良ぉしてくれるねん!」

旅のスタイルはひとそれぞれ、にしても、バリショイとハラショーでシベリアを走りきったのは凄すぎる・・・。

みんな藤本さんを歓迎してくれて、こうして一緒に飯を食い、話しをしてお互いの理解を深め合う。何て幸せな時間なのだろう。

藤本さんがこのまま世界一周する、と聞いてみんな興味津々。





藤本 周三さん。
60歳前にして仕事にひと区切りつけ、若い頃からの夢であったバイクでの世界一周を実現しようとしている。藤本さんとはちょうど30、歳が離れているが、30年後、自分が今の藤本さんの歳になった時に、今の藤本さんのように純粋にやりたい事が出来るのだろうか。果たして自分に同じ事が出来るのだろうか・・・。

バイクでの世界一周に関して言えば、まず健康でいる事が絶対条件だ。もちろん体力がいるが、気力もないと無理だろう。心身共に健康でないと不可能だ。

金もいる。バイクの旅はある意味では貧乏旅行。基本キャンプ、そして野宿。
バイクやったら自由に移動出来てひとつの旅でいろんなところに行ける、というのがそもそもの発想で、ツアーに参加して食事付きのホテルに泊まり、観光し、ショッピングする、といったものとは考え方がかけ離れている。
しかし、貧乏旅行と言えど海外を走るにはある程度のまとまった金が必要で、それが世界一周となると最低限必要な費用だけでも途方もない額になる。
金がないと出発すら出来ない。

そして時間。心身共に健康で金があっても時間がなければ無理だ。世界一周となると期間は1年以上、数年になる場合もある。その時間健康でいられるかも重要だ。

あとは家族の理解と運。行きたいタイミングで行けるかどうか。
それまでの努力と強い意志も必要だ。人一倍努力し、揺るがない強い気持ちがないと到底出発地点に立てない。

他にも乗り越えるべきハードルは沢山ある。藤本さんはそれら全てを乗り越えて今ここにいる。発想があっても実現出来る人など極僅かだろう。そう思うと奇跡を目の当たりにしているような気さえする。

端から見れば自由に好きな事をやって、いいように見えるかも知れないが、少なからずの犠牲とリスクを伴い、何を得れるかも分からない。旅の道中では喜びも多いが、想像を絶する辛さもある。
何の為にあえて過酷な手段を選ぶのか。なぜ旅をするのか。自問しても答えは出ない。おそらく多くの旅人がそうだろう。旅を続ける間にも迷いは必ずある。

でも、今、目の前にいる藤本さんは最高の笑顔を見せる。同じ手段で旅をしている私が羨むほど、その表情は生き生きとしている。
藤本さんのような歳の取り方をしたいと思う。そう思わせるのはきっと藤本さんの人間性が素晴らしいからだろう。親子ほど歳が離れているが、私を尊重してくれ、対等に付き合ってくれている。同じように過酷な経験をして、今はこうして喜びを分かち合い、不思議な気分だ。

私はおそらく数日後にはウラジオストクに向かって走り出す。Uターンだ。藤本さんはさらに前進を続け、異国から異国へと旅を続ける。羨ましい限りだ。
藤本さんならこれからどんな困難が待ち受けていようとも、きっと笑顔で乗り切るだろう。無事を祈ろう。

日本からウラジオストクへと向かう船、ルーシ号で一緒だったのが藤本さんで本当に良かった。船の中から散々世話になったが、少しは恩返し出来ただろうか?
藤本さんにとってはまだ旅は始まったばかり。過酷な旅はまだまだ続く。ここモスクワで少しでもリラックス出来ればいいのだが・・・。

ヴィタリー、アンドレイ、そしてセルゲイには感謝してもしきれない。この場を与えてくれて本当にありがとう。








敷地内のガレージに移動する。





ガレージには「ロシアで一台」というINDIAN インディアンが・・・。





オイル漏れしていて最近エンジンを掛けていないらしい。もったいない・・・。





藤本さんいい笑顔。藤本さんもインディアンは初めて見るようだ。





それにしてもセルゲイ、バイクと自転車何台あんねん。






広い敷地にカントリーハウスと男のガレージ。そして豊かな緑。
こんな家に住めたら最高だな。

藤本さんと話し、明日出発する事にした。セルゲイとはここでお別れ。見ず知らずの外国人をもてなしてくれたこの恩は一生忘れない。





アンドレイと共にヴィタリーの家へ。アンドレイともここでお別れだ。ハグして別れを惜しむ。
ふと、涙がこぼれた。なぜかは分からない。ハバロフスクでも、道中でも、人と別れる時に涙した事はなかった。アンドレイには何かがある。それが何なのか分からないが、揺れ動く感情を抑える事が出来なかった。またいつか会おう、そう言ってアンドレイと別れた。
本当にまた会いたいと心から思った。またなアンドレイ。





ヴィタリーの家に上がり、藤本さんと3人で話をする。藤本さんもモスクワに着いたばかりで疲れているはずだが、話は尽きず、延々としゃべっている間に、気が付けば朝になっていた。
「ザフトラ ニェット ポスレ ザフトラ」
出発は明日じゃない、明後日だ、とヴィタリーが言う。
モスクワを発つのは明後日になった。





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