2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
__________________________________________
5月30日 金曜日
目が覚める。妙に頭がすっきりしている。体も軽い。間違いない、これは昨日のバーニャの影響だ。
アントン、ナターシャとイヴァンにおはようと言う。
アントンは、みんなから「トーハ」と呼ばれている。私もトーハと呼ぼう。
みんなで家から出る。朝の散歩だ。
なんていい家に住んでいるんだ、トーハ(アントン)とナターシャは。家が緑に覆われている。その緑も光に照らされてキラキラと輝き、まさに今、光合成してますよと言わんばかりに、生き生きとしている。昨日のバーニャで境地に達した今の私の目には、その様子がより鮮明に映る。
タバコを吸いながら喋っていると、エヴァンがやってきた。エヴァンは朝からパワフルでゴキゲンだ。いや〜、それにしても気持ちがいい。何て清々しい朝なのだろうか。
そういえば旅に必要なものがまだあった。ブーツだ。日本から履いてきた靴はスリッポンで、形は気に入っているが、沼に嵌まると脱げる。何回か実際に脱げて、その度に足がドロドロになっていた。
イヴァンが履いているブーツがちょうど良さそうだったので、イヴァンのブーツを指差して、「このブーツどこに売ってるん?」と聞くと、イヴァンは「ミリタリーショップだ」と答え、「行くか?」と続けた。自然とみんなでミリタリーショップに行く事になった。
ミリタリーショップに着くが、本物のミリタリーショップだ。ピストルが置いている。
みんなが軍隊ごっこをしているあいだにブーツを探すと、そのまんま、イヴァンと全く同じブーツがあった。2,500ルーブルで1万円ほどしたが、シベリアの道を走るには必須だ。スリッポンで来るなんてロシアを舐めていたな・・・。
店員に2,500ルーブル渡し、早速その場でブーツを履く。ばっちりだ。
喜びながらイヴァンに「一緒や」と言うと、イヴァンもノリノリで返してくる。アムールタイガーの連中はいい奴ばかりで、ウマが合う。
この後、ハバロフスク観光に行く事になった。
シベリア平和慰霊公苑だ。
入り口にある石碑のプレートにはこう書かれていた。
「第二次大戦後ソ連邦において死亡した日本人の英霊を鎮魂し、二度と再び戦争の悲劇を繰り返さないことを誓い、民族、宗教の枠を越え、日本とロシア国の愛と平和の祈りをこめて、この平和慰霊公苑を建設した。
一九九五年九月十二日
日本国 財団法人太平洋戦争戦没者慰霊協会
ロシア連邦 ハバロフスク州ハバロフスク市」
平和慰霊公苑の建設に関わった個人や企業の名前が刻まれているが、その中に、私が旅に出る直前まで勤務していた会社の関連企業の名前があり、何か、縁のようなものを感じた。
ハバロフスク、この街に平和慰霊公苑があるのを、この時に初めて知ったのだ。
自分が生まれる前の遠い昔の日本、ロシアに思いを馳せ、今を見つめる。
私の目に見えるのは、美しいハバロフスクの街と、それ以上に美しいロシア人たち。
日本人の私をここに連れてきてくれた事に感謝だ。
いったんトーハの家に戻って、再び家の周りをぶらぶらと散歩をしていた時、突然「初めまして」と声をかけられた。日本語で、だ。
振り返ると若い女の子が立っていた。
「えっ?日本語しゃべれるん?」と日本語で聞くと、「大学で勉強しています」と言っている。女の子の横にいるおばちゃんは先生か。先生も日本語を話すが、女の子の方が断然上手いぞ。
名前はユリアだ。とっさに「北斗の拳」を思い出した。覚えやすい。
先生は日本語で「それではさようなら」と言って去って行ったが、ユリアは私のそばから離れない。「通訳します」と言っている。
エヴァンがなにか言っているが、何を言っているのか分からない。するとユリアが
「今から動物園に行きます」と言っている。通訳だ・・・。
みんなで動物園に行く事になった。XL1200の後部座席にユリアを乗せて。
動物園に着くとロシア美人と超絶に可愛いい女の子がいた。エヴァンの奥さんのジェーナと、子供のエヴィリーナだ。
この超絶に可愛いいエヴィリーナがあのエヴァンの子供だとはにわかには信じられないが、よく見るとエヴァンも男前だな。すごくいい顔をしている。ジェーナも典型的なロシア美人だ、納得。
園内を回る。みんながあれやこれやと喋っているのを、ユリアが通訳しながら解説してくれる。「人を食べて捕まった熊」に「サーカスで心を病んで人を襲った白熊」に「地上最強の肉食獣アムールタイガー」。すべてシベリアの大自然に生息している。特に人を食べた熊は人間の味を覚えているから危険、らしい。シベリアでのキャンプが少し不安になった・・・。
みんな本当に楽しそうだ。
ロシアに来てから、ロシア人の人懐っこさや優しさ、絆の強さを知ったが、このハバロフスクのモーターサイクルクラブ、「アムールタイガー」の連中はさらにその感覚が強い。そう、まるで本物の家族のような一体感だ。そして私のような見ず知らずの外国人に対しても家族のように接してくれている。
私は運がいい。この最高の仲間たちと出会う事が出来て、本当に幸せ者だ。
今日はエヴァンの家に泊まる事になった。
エヴァンの家に行く前に、寄るところがあると言う。
アムールタイガーの本拠地だ。
街の中心地から少し離れた場所にそれはあった。入り口付近の体をなしていない扉には槍が突き刺さっている。ここがアムールタイガーのクラブだ。
「ALL BiKERS WELCOME」の文字が私を、そして世界中のバイカーを迎える。
そう、このモーターサイクルクラブ「アムールタイガー」(正式には、アムール大山猫 РЫСИ АМУРА )は、伝統的にシベリアを走る世界のバイカーたちの世話をしているのだ。この時に初めて知ったが、おそらくこれまでに、私のように外国から来た何人ものバイカーが、このクラブに世話してもらい、シベリアの大地を駆け抜けて行ったのだろう。
エヴァンに案内されて小屋に向かう。中に入ると、10人ほどの男たちがいる。知らない顔ばかりで、年は40〜50代か、エヴァンやトーハ、私たちの世代よりもひとまわりかふたまわり上の世代だ。どうやらクラブの幹部の集まりで、何やら打ち合わせをしているようだ。シリアスな空気で、エヴァンも少し緊張しているのか、いつもの笑顔がない。
私はロシア語で自己紹介するが、もうみんな私の事をメンバーから聞いて知っているようで、そのまま打ち合わせに参加させられた。この時ユリアは近くにいなかったが、ヴィタリーという名の男が少し日本語を話せるようで、私にみんなの紹介と、通訳をしてくれた。
少しずつ分かってきたが、明日、ハバロフスクの150周年の祭りの本番で、パレードがあり、アムールタイガーがそのパレードの隊列に混じって、街を行進するようだ。
「プレジデント」と呼ばれる男、アムールタイガーのボス、アナトリオが黒板に描かれた絵を指してこう言った。
「お前はここだ」
・・・えっ?
黒板にはバイクの隊列の絵が描かれていて、その一番下をアナトリオが指差している。そしてアナトリオはこう続けた。
「絶対に隊列を乱すな」
信じられない、大好きな街、ハバロフスクの生誕150周年のパレードに、XL1200と共に参加できるのか。しかも一番後ろから、アムールタイガーのみんなを見ながら・・・。
喜びを爆発させたかったが、シリアスな空気がそうさせなかった。しかし、喜びを抑えられない私は、エヴァンに向けてとびきりの笑顔を見せた。
ここまで考えていたのか、エヴァンは。昨日、あのホテルで出会った時に・・・。
そう、エヴァンはホテルのフロントの女に、こう代筆させたのだ。
「ハバロフスクの150ねんのおいわいがあります。いっしょにおいわいしませんか?」
その後も打ち合わせは続いたが、場の緊張が緩む事はなかった。アナトリオがそれを許さないように思えた。クラブとしても、失敗は許されない一大イベントなのがよく分かった。
打ち合わせが終わると、一気に場の空気が緩んだ。ようやく緊張から解かれると、一転して和やかな雰囲気になり、すぐにみんなと打ち解けた。
ずっと私に日本語で説明してくれたヴィタリー、髭面でイケメンのボリス、むちゃくちゃ喧嘩強そうなクォースチャ、その他にも名前を覚えきれないが、なんや、みんなええやつやん。
そして「プレジデント」アナトリオ。私の参加を許してくれて、ありがとう!
私は興奮して、エヴァンに抱きついた。エヴァンも全力でそれに応える。ありがとうエヴァン!
どうやらユリアはついてくるみたいだが、他のみんなとはここでお別れだ。さらば、また明日。
エヴァンの行くぞ!の合図で、私たちは再び走り出した。
エヴァンの家だ。
この超絶に可愛いエヴィリーナがとんでもない悪ガキだという事はすぐに分かった。
私のバッグから荷物を次々にひっぱり出し、部屋を私の荷物で溢れさせたかと思うと、笑いながら何度も私に突進してきて、気が付くとカメラのシャッターを切りまくり、落ち着いたかと思うと旅のノートに落書きをしている。パスポートにも落書きしようとしていたので、それはあかん、と高い高いするようにエヴィリーナを捕まえて持ち上げるが、彼女はくねくねと体を揺すってスルスルと私の体を滑り降りていき、猛ダッシュで逃げていく。どうやらエヴィリーナの方が一枚上手なようだ・・・。
いや、悪ガキは言い過ぎた。とびきり好奇心旺盛な超わんぱく娘、だな。
まあ、そういう事にしといてやろう・・・。
ジェーナがいたずらを見つけ、エヴィリーナを叱る。よその家庭の躾なので強く言えないが、ジェーナにええよええよ、と言って、あまりエヴィリーナを怒らないようにしてもらう。
エヴィリーナにも楽しんで欲しいのだ。
晩御飯はジェーナの手作り。ボルシチに豆料理にパンと魚の漬物。ロシアの家庭料理だ。
ん、これはレストランよりも美味しいぞ。やるなジェーナ。
美味しい料理で腹一杯になった。何て贅沢な夜なんだろうか。
晩御飯を食べ終えると、エヴァンが行くぞ、と言った。これで終わりではないのか・・・。
連れて行かれたのは公園。中までバイクで入っていくと、アムールタイガーのメンバーが集まっている。何をするわけでもないが、こうしてこの公園に集まるのが日課のようだ。
その後も続々とバイカーたちがやってくる。
夜の10時、やっと空が薄暗くなってきたが、それでもまだ少し明るく、日本の夕方くらいだろうか。本格的に暗くなるのは夜の11時頃で、朝5時にはもう明るい。太陽が昇っている時間が長く、時間の感覚が狂う。
ロシアの極東、ハバロフスクではこれが日常だ。長くて暗い、凍てつくような冬が終わり、駆け足で暖かくなる春から夏に向けてのこの時期、少しでも活動時間が長くなるようにと、きっと地球がここで生きるものたちに与えたご褒美なんだ。
次は>『ハバロフスク創立150周年記念祭』 ハバロフスク その4 / Хабаровск (4)
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
__________________________________________
5月30日 金曜日
目が覚める。妙に頭がすっきりしている。体も軽い。間違いない、これは昨日のバーニャの影響だ。
アントン、ナターシャとイヴァンにおはようと言う。
アントンは、みんなから「トーハ」と呼ばれている。私もトーハと呼ぼう。
みんなで家から出る。朝の散歩だ。
なんていい家に住んでいるんだ、トーハ(アントン)とナターシャは。家が緑に覆われている。その緑も光に照らされてキラキラと輝き、まさに今、光合成してますよと言わんばかりに、生き生きとしている。昨日のバーニャで境地に達した今の私の目には、その様子がより鮮明に映る。
タバコを吸いながら喋っていると、エヴァンがやってきた。エヴァンは朝からパワフルでゴキゲンだ。いや〜、それにしても気持ちがいい。何て清々しい朝なのだろうか。
そういえば旅に必要なものがまだあった。ブーツだ。日本から履いてきた靴はスリッポンで、形は気に入っているが、沼に嵌まると脱げる。何回か実際に脱げて、その度に足がドロドロになっていた。
イヴァンが履いているブーツがちょうど良さそうだったので、イヴァンのブーツを指差して、「このブーツどこに売ってるん?」と聞くと、イヴァンは「ミリタリーショップだ」と答え、「行くか?」と続けた。自然とみんなでミリタリーショップに行く事になった。
ミリタリーショップに着くが、本物のミリタリーショップだ。ピストルが置いている。
みんなが軍隊ごっこをしているあいだにブーツを探すと、そのまんま、イヴァンと全く同じブーツがあった。2,500ルーブルで1万円ほどしたが、シベリアの道を走るには必須だ。スリッポンで来るなんてロシアを舐めていたな・・・。
店員に2,500ルーブル渡し、早速その場でブーツを履く。ばっちりだ。
喜びながらイヴァンに「一緒や」と言うと、イヴァンもノリノリで返してくる。アムールタイガーの連中はいい奴ばかりで、ウマが合う。
この後、ハバロフスク観光に行く事になった。
シベリア平和慰霊公苑だ。
入り口にある石碑のプレートにはこう書かれていた。
「第二次大戦後ソ連邦において死亡した日本人の英霊を鎮魂し、二度と再び戦争の悲劇を繰り返さないことを誓い、民族、宗教の枠を越え、日本とロシア国の愛と平和の祈りをこめて、この平和慰霊公苑を建設した。
一九九五年九月十二日
日本国 財団法人太平洋戦争戦没者慰霊協会
ロシア連邦 ハバロフスク州ハバロフスク市」
平和慰霊公苑の建設に関わった個人や企業の名前が刻まれているが、その中に、私が旅に出る直前まで勤務していた会社の関連企業の名前があり、何か、縁のようなものを感じた。
ハバロフスク、この街に平和慰霊公苑があるのを、この時に初めて知ったのだ。
自分が生まれる前の遠い昔の日本、ロシアに思いを馳せ、今を見つめる。
私の目に見えるのは、美しいハバロフスクの街と、それ以上に美しいロシア人たち。
日本人の私をここに連れてきてくれた事に感謝だ。
いったんトーハの家に戻って、再び家の周りをぶらぶらと散歩をしていた時、突然「初めまして」と声をかけられた。日本語で、だ。
振り返ると若い女の子が立っていた。
「えっ?日本語しゃべれるん?」と日本語で聞くと、「大学で勉強しています」と言っている。女の子の横にいるおばちゃんは先生か。先生も日本語を話すが、女の子の方が断然上手いぞ。
名前はユリアだ。とっさに「北斗の拳」を思い出した。覚えやすい。
先生は日本語で「それではさようなら」と言って去って行ったが、ユリアは私のそばから離れない。「通訳します」と言っている。
エヴァンがなにか言っているが、何を言っているのか分からない。するとユリアが
「今から動物園に行きます」と言っている。通訳だ・・・。
みんなで動物園に行く事になった。XL1200の後部座席にユリアを乗せて。
動物園に着くとロシア美人と超絶に可愛いい女の子がいた。エヴァンの奥さんのジェーナと、子供のエヴィリーナだ。
この超絶に可愛いいエヴィリーナがあのエヴァンの子供だとはにわかには信じられないが、よく見るとエヴァンも男前だな。すごくいい顔をしている。ジェーナも典型的なロシア美人だ、納得。
園内を回る。みんながあれやこれやと喋っているのを、ユリアが通訳しながら解説してくれる。「人を食べて捕まった熊」に「サーカスで心を病んで人を襲った白熊」に「地上最強の肉食獣アムールタイガー」。すべてシベリアの大自然に生息している。特に人を食べた熊は人間の味を覚えているから危険、らしい。シベリアでのキャンプが少し不安になった・・・。
みんな本当に楽しそうだ。
ロシアに来てから、ロシア人の人懐っこさや優しさ、絆の強さを知ったが、このハバロフスクのモーターサイクルクラブ、「アムールタイガー」の連中はさらにその感覚が強い。そう、まるで本物の家族のような一体感だ。そして私のような見ず知らずの外国人に対しても家族のように接してくれている。
私は運がいい。この最高の仲間たちと出会う事が出来て、本当に幸せ者だ。
今日はエヴァンの家に泊まる事になった。
エヴァンの家に行く前に、寄るところがあると言う。
アムールタイガーの本拠地だ。
街の中心地から少し離れた場所にそれはあった。入り口付近の体をなしていない扉には槍が突き刺さっている。ここがアムールタイガーのクラブだ。
「ALL BiKERS WELCOME」の文字が私を、そして世界中のバイカーを迎える。
そう、このモーターサイクルクラブ「アムールタイガー」(正式には、アムール大山猫 РЫСИ АМУРА )は、伝統的にシベリアを走る世界のバイカーたちの世話をしているのだ。この時に初めて知ったが、おそらくこれまでに、私のように外国から来た何人ものバイカーが、このクラブに世話してもらい、シベリアの大地を駆け抜けて行ったのだろう。
エヴァンに案内されて小屋に向かう。中に入ると、10人ほどの男たちがいる。知らない顔ばかりで、年は40〜50代か、エヴァンやトーハ、私たちの世代よりもひとまわりかふたまわり上の世代だ。どうやらクラブの幹部の集まりで、何やら打ち合わせをしているようだ。シリアスな空気で、エヴァンも少し緊張しているのか、いつもの笑顔がない。
私はロシア語で自己紹介するが、もうみんな私の事をメンバーから聞いて知っているようで、そのまま打ち合わせに参加させられた。この時ユリアは近くにいなかったが、ヴィタリーという名の男が少し日本語を話せるようで、私にみんなの紹介と、通訳をしてくれた。
少しずつ分かってきたが、明日、ハバロフスクの150周年の祭りの本番で、パレードがあり、アムールタイガーがそのパレードの隊列に混じって、街を行進するようだ。
「プレジデント」と呼ばれる男、アムールタイガーのボス、アナトリオが黒板に描かれた絵を指してこう言った。
「お前はここだ」
・・・えっ?
黒板にはバイクの隊列の絵が描かれていて、その一番下をアナトリオが指差している。そしてアナトリオはこう続けた。
「絶対に隊列を乱すな」
信じられない、大好きな街、ハバロフスクの生誕150周年のパレードに、XL1200と共に参加できるのか。しかも一番後ろから、アムールタイガーのみんなを見ながら・・・。
喜びを爆発させたかったが、シリアスな空気がそうさせなかった。しかし、喜びを抑えられない私は、エヴァンに向けてとびきりの笑顔を見せた。
ここまで考えていたのか、エヴァンは。昨日、あのホテルで出会った時に・・・。
そう、エヴァンはホテルのフロントの女に、こう代筆させたのだ。
「ハバロフスクの150ねんのおいわいがあります。いっしょにおいわいしませんか?」
その後も打ち合わせは続いたが、場の緊張が緩む事はなかった。アナトリオがそれを許さないように思えた。クラブとしても、失敗は許されない一大イベントなのがよく分かった。
打ち合わせが終わると、一気に場の空気が緩んだ。ようやく緊張から解かれると、一転して和やかな雰囲気になり、すぐにみんなと打ち解けた。
ずっと私に日本語で説明してくれたヴィタリー、髭面でイケメンのボリス、むちゃくちゃ喧嘩強そうなクォースチャ、その他にも名前を覚えきれないが、なんや、みんなええやつやん。
そして「プレジデント」アナトリオ。私の参加を許してくれて、ありがとう!
私は興奮して、エヴァンに抱きついた。エヴァンも全力でそれに応える。ありがとうエヴァン!
どうやらユリアはついてくるみたいだが、他のみんなとはここでお別れだ。さらば、また明日。
エヴァンの行くぞ!の合図で、私たちは再び走り出した。
エヴァンの家だ。
この超絶に可愛いエヴィリーナがとんでもない悪ガキだという事はすぐに分かった。
私のバッグから荷物を次々にひっぱり出し、部屋を私の荷物で溢れさせたかと思うと、笑いながら何度も私に突進してきて、気が付くとカメラのシャッターを切りまくり、落ち着いたかと思うと旅のノートに落書きをしている。パスポートにも落書きしようとしていたので、それはあかん、と高い高いするようにエヴィリーナを捕まえて持ち上げるが、彼女はくねくねと体を揺すってスルスルと私の体を滑り降りていき、猛ダッシュで逃げていく。どうやらエヴィリーナの方が一枚上手なようだ・・・。
いや、悪ガキは言い過ぎた。とびきり好奇心旺盛な超わんぱく娘、だな。
まあ、そういう事にしといてやろう・・・。
ジェーナがいたずらを見つけ、エヴィリーナを叱る。よその家庭の躾なので強く言えないが、ジェーナにええよええよ、と言って、あまりエヴィリーナを怒らないようにしてもらう。
エヴィリーナにも楽しんで欲しいのだ。
晩御飯はジェーナの手作り。ボルシチに豆料理にパンと魚の漬物。ロシアの家庭料理だ。
ん、これはレストランよりも美味しいぞ。やるなジェーナ。
美味しい料理で腹一杯になった。何て贅沢な夜なんだろうか。
晩御飯を食べ終えると、エヴァンが行くぞ、と言った。これで終わりではないのか・・・。
連れて行かれたのは公園。中までバイクで入っていくと、アムールタイガーのメンバーが集まっている。何をするわけでもないが、こうしてこの公園に集まるのが日課のようだ。
その後も続々とバイカーたちがやってくる。
夜の10時、やっと空が薄暗くなってきたが、それでもまだ少し明るく、日本の夕方くらいだろうか。本格的に暗くなるのは夜の11時頃で、朝5時にはもう明るい。太陽が昇っている時間が長く、時間の感覚が狂う。
ロシアの極東、ハバロフスクではこれが日常だ。長くて暗い、凍てつくような冬が終わり、駆け足で暖かくなる春から夏に向けてのこの時期、少しでも活動時間が長くなるようにと、きっと地球がここで生きるものたちに与えたご褒美なんだ。
次は>『ハバロフスク創立150周年記念祭』 ハバロフスク その4 / Хабаровск (4)
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
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