『導き』 ハバロフスク / Хабаровск

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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5月28日 水曜日
 
テントの中が暑くて目覚める。外はもう明るい。時計を見ると8時だ。寝過ぎた。
テントを飛び出した勢いでカフェに飛び込む。ジョンは・・・いない。
ジョンがいない!寝過ぎた!
目の前にいるジョンではないセキュリティーの男、おそらく元軍人であろうやせ細ったロシア人が、私に向かってこう言った。
「ジョンはもう帰った」



ここを出る前に改めてジョンにお礼をしたかったのが、どうやら少し、遅かったようだ。おそらくジョンは私に気を使って何も言わずに帰ったのだろう。昨日このカフェに辿り着いた時、私は雨でずぶ濡れになって凍えていた。ジョンのおかげで、身も心も温まり、安心してぐっすり眠る事が出来たのだ。
そうか、会えないのなら仕方がない。帰路で寄ればいいのだ、このカフェに。無事に戻って、笑顔でジョンと再会だ。

カフェを出て、テントをたたむ。気持ちはもう前を向いていた。ハバロフスクまで500Kmちょっとだ。順調にいけば今日中に着くだろう。
しかし、XL1200に荷物を積んでいる時にふと思ったが、私にはキャンプは向いていないのではないだろうか。いや、正確にはテントが、か。テントの設営・撤去のこの時間がもったいないような気がする。

もうここにはいないジョンに別れを告げ、私はチカロフスコエからハバロフスクに向けて走り出した。





時々現れる道路標識で通過する街の名前に注意しながら、そしてオドメーターでガソリン残量に注意しながら、ひたすら走り続ける。昼間はダートも走りやすい。先が見えるだけで、夜とは段違いの安心感がある。
ジョンのいたカフェを出てから、10時間くらい経った頃、「 Хабаровск 50」の標識が見えた。ハバロフスクまであと50Kmだ。ガソリンスタンドが見える。街に着く前にガソリンを入れておこう。街中でガソリンスタンドを探すのは面倒だ。

XL1200から降りてガソリンを入れていると、何人かのロシア人が寄ってきて、ものすごい勢いで話しかけてくる。何を言っているのか分からないが、何が聞きたいのかは分かる。
「どこから来たんだ?」と「どこまで行くんだ?」だ。ひとつ前のガソリンスタンドでもそうだった。その前も・・・。

「ヤー イポーニッツ Я японец(俺は日本人)」
「ヤー イェーハチ モスクワ Я ехать Москва(俺はモスクワ行く)」
親指で後ろを指して「イズ ウラジオストク Из Владивосток(ウラジオストクから)」

正しい文法がどうなのかは分からない。同じ事を表すにしても、男言葉と女言葉があって、言い回しも違ってくるようだが、それもよく分からない。知っている単語を組み合わせただけだ。しかし、これで伝わるのだ。
おそらく相手がこちらに興味津々だからだろう。私の事を理解しようとしているから、こちらの言う事が伝わるのだ。
「日本人!?」
「モスクワ!?」
皆一様に驚き、さらに輪をかけて、怒涛の勢いで喋ってくる。言葉のシャワーを浴びているようで、何を言っているのかほぼ分からないが、ずっと聞いているとたまに分かる言葉が出てくる。ジョンに教えてもらった言葉だ。分かる言葉を逃さないように集中して相手の言葉を聞き、聞き覚えのある言葉があれば即座に返す。あとは、勘だ。
少しずつだが、ロシア語が分かってきた。いや、正確には、相手が何を言っているのかが、だな。いつの間にかガソリンスタンドが、ロシア人との触れ合いの場になっている。

給油を終えると、今度はガソリンスタンドの店員が話しかけてきた。こっちに来いと言っているのでついて行くと、彼の仕事場の小屋に通された。














名前はリサだ。女みたいな名前だな、と思ったが、本人は「リサはキツネだ」と言っている。よく分からないがジュースとタバコをご馳走になり、しばし談笑する。こんな感じで旅はなかなか先に進まない。しかし、そんな事はどうでもよかった。私は今を楽しんでいた。

それにしてもロシア人がこんなに人懐っこいとは思わなかった。見ず知らずの外国人に対して、みんな驚くほど積極的だ。





カフェで店員の女がチャイをご馳走してくれた。もうわけがわからない。ガソリン以外に金を使っていない気がする。







「ボルトが取れてるぞ」と言って、修理屋の若い男がボルトを付けてくれた。
ウラジオストクからここまでの道のりで何個かボルトやナットが無くなっていた。この辺ではよくある事なのだろう。ガタガタのダートでネジが緩むのだ。
「いくら?」
「金はいらん」
なんなんだこれは・・・。

彼らロシア人に接すると、なんとなく、助け合いの精神の様なものを感じる。
このシベリアの大地で、ひとりで生きていくのは困難だ。想像を絶するほど厳しい環境の中で、彼らは互いに助け合いながら生きてきたのだ。困っている者がいれば当たり前のように手を差し伸べる。自然の摂理だ。彼らロシア人は、きっとシベリアの大自然から学んだのだろう。

おそらくここで10人くらいのロシア人にスパシーバと言った。ようやく出発だ。




空はまだ真昼のように明るい。標識通り50Km進むと街が見えてきた。これがハバロフスクか、大きな街だな。
色鮮やかな看板と、なだらかな丘に沿う綺麗な街並みが目に飛び込む。人も車も多く、活気がある。素敵な街だ。嬉しくなってワクワクしてきた。
路面電車が走っている。あれについて行って街の中心地に向かおう。

しばらく路面電車について並走していると、綺麗な公園が見えてきた。よし、少し休憩するか。
公園にXL1200を止め、お気に入りのトロイカに火を点ける。ずっと神経が高ぶっていたが、少し落ち着いた。XL1200は、もう既にボロボロだ。この先が思いやられる・・・。
時計を見ると、19時になっていた。
それにしても、いい街だ・・・よし、今日は「大都市ではホテルに泊まる」のロシア旅行の掟に則って、ホテルに泊まろう。
ハバロフスク、この街は間違いなく大都市だ。





次は>『アムールタイガー』 ハバロフスク その2 / Хабаровск (2)


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