『エヴァン』 ハバロフスク その5 / Хабаровск (5)

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月1日 日曜日

そう、今日は日曜日。と言っても、毎日が休日のようなものだが。
ハバロフスクに来てから、ずっとエヴァンと一緒にいる気がする。実際ずっと一緒にいる。ユリアもそばにいてくれるが、エヴァンと話す時は極力ユリアに頼らないようにしている。エヴァンは英語が話せないので、基本ロシア語と、あとはジェスチャーで会話する。エヴァンの事が少しずつ分かってきた。



エヴァンは私よりもひとつ年上の29歳、エストニア出身の元軍人。それもロシアの「特別な」軍隊に所属していたようで、今は年金で生活している。身体障害年金だ。エヴァンは少し、左足を引きずって歩いている。
昨日、ふたりで夜遅くまで街を走り回り、帰宅してからも明け方まで喋っていた。エヴァンは年金の事を説明する時に、服を脱いで上半身裸になって、私にあるものを見せてくれた。腰の少し上、あたりが大きくえぐられていて、その部分の肉がなくなっている。
エヴァンは「ミサイルが体をかすめた」と言って笑うが、笑い事ではない。その時に死を覚悟したはずだ。痛々しく、生々しい傷跡は、エヴァンの壮絶な体験を物語っていた。
なんとなく、人間は生きるか死ぬかの経験をすると、人に対して優しく出来るものなのか、と思った。エヴァンを見ているとそう思う。何かを超越している。
言葉ではうまく言えないが、エヴァンは人を惹きつけるものを持っていて、その求心力に引き付けられるようにして、私はここにいるようだった。

エヴァン一家とユリアと共に日曜日のハバロフスクを観光し、いつもの公園に向かう。









休日、しかもパレードの翌日なので、普段よりも人が多くて賑やかだ。ピクニック気分で楽しい。
みんなで芝生に座り込んで休憩する。いい時間だ。なんて良いひとときなんだろうか。
ユリアに「美しい」のロシア語を教えてもらう。「クラシーバ」だな。
「ジェーナ クラシーバ エヴィリーナ クラシーバ」
と言うと、ジェーナが照れ笑いをする。ユリアも笑いながらうんうん、と頷き、「ジェーナもエヴィリーナも、とても綺麗」と言っている。
ジェーナは本当にロシア美人だ。笑顔が最高にいい。エヴィリーナもニコニコしていて可愛い。エヴァン、やるな。
よし、使い方は合っているようだ。今度は「いい奥さん貰ったな」のロシア語だ。エヴァンにそう言いたかったのだ。ユリアが笑いながら教えてくれたその言葉をエヴァンに言う。
「ウ エワナ ホロシャア ジェーナ」
今度はエヴァンが照れくさそうに笑い、ジェーナもとびきりの笑顔を見せる。エヴィリーナもニコニコしている。本当にいい家族だ。

ところでユリアはそもそも誰の友達なんだろうか。疑問に思ったのでユリアに聞くと、思いもよらない返答が返ってきた。
「誰も知り合いじゃないです。みんな初めましてです」
えっ?じゃあ、あの日、トーハの家の近所で私に「初めまして」と声をかけてきた時に、誰もユリアの事を知らず、ユリアもみんなの事を知らなかったのか。
私はてっきりエヴァンかトーハかイヴァンか、誰かの友達で、その誰かが私と会話をする為に、日本語を話せるユリアを強引に連れ出したのかと思っていた。そうではなかったのだ。ユリアはアムールタイガーの事も知らずに、ずっと私のそばにいてくれたのだ。自分の意思で・・・。

「ユリア クラシーバ」
私がこう言うと、ユリアは照れくさそうにしながら笑って「ありがと」と言った。
ユリアは私と出会ってから、ずっとそばにいてくれている。自分の時間を犠牲にし、何の見返りも求めずに、見ず知らずの外国人である私に付き合ってくれているのだ。義理や人情や無償の愛、まさかこのロシアでそんな事を感じるとは思いもよらなかったが、何者でもない私に親切にしてくれる彼らに対して、そしてこの時ユリアに対して、心から「美しい」と、そう感じたのだ。伝わっただろうか?

その後も他のアムールタイガーのメンバーと会うが、みんな飯やビールをご馳走してくれようとする。何度か断り、何度か甘えているうちに、気がつくと腹いっぱいになっている。みんなほんまにありがとう。

だんだんと非日常が日常化してきた。私はいつまでもここにいたいと思う気持ちと、先に進まなければならないという気持ちとで、心が張り裂けそうになっていた。




次は>『沈没』 ハバロフスク その6 / Хабаровск (6)
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