2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月2日 月曜日
大きなベッドの上で目覚める。ユリアはもう起きていて、ジェーナが朝食の準備をしている。顔を洗って休んでいると、エヴィリーナが目をこすりながら食卓にやって来て、続いてエヴァンもやって来る。
「ドブラウートラ доброе утро (おはよう)」
エヴァンの家で3連泊し、これが今の日常だ。非日常が完全に日常化している。
みんなで朝食を食べるが、ジェーナの作る料理は相変わらず美味い。
今日は月曜日、ユリアは一度家に戻って学校に行くと言うので、一旦お別れの挨拶をする。ロシア語に英語、フランス語に韓国語、そして日本語を話せるユリアはとても頭のいい大学生だ。日本人旅行者の私と3日間一緒にいて、どう感じただろうか。きっと彼女の未来は明るいだろう。
エヴァンが「行くぞ!」と言い、ふたりでバイクで走り出す。
ハバロフスクの街を走り回り、マガジンで買い食いしつつ、いろんなところでいろんな人と話をする。今日は月曜日・・・。
「エヴァン、仕事は?」と聞くと、エヴァンは笑って「マネージャー」と答える。私のマネージャーという事だろうか。ずっと一緒にいるが、働いている様子はない。きっと軍隊時代の障害年金で生活しているのだろう。決して裕福な暮らしをしている訳ではないのに、私の面倒を見てくれているのだ。だからせめてものお礼にと、こうやってふたりで動く時にはエヴァンの分の飯やスナックの代金も出すようにしている。それにしてもエヴァンはよく食う。ジュースも1.5リットルで買う。金の掛かる男だな。
本当は今日ハバロフスクを発つつもりだったが、どうやらそれは無理なようだ。エヴァンは明日にしろと言う。理由を聞くと、TV局がインタビューをしたがっている、と言う。アナトリオも今日行くなと言っている、と伝え聞きく。明日会いに来いと言うのだ。アムールタイガーのプレジデントにそう言われれば従うしかない。彼には恩がある。
夕方になってユリアを拾い、再び街に繰り出す。駐車場のように見える大きな広場に着くと、アムールタイガーの連中が20人ほど集まっていた。
広場ではスポーツバイクに乗った男がジャックナイフを繰り返していて、バーンアウトで路面に字を書いている男がいると思うと、ウィリーをしたまんま遠くの方まで走り去って行く者もいる。ロシア人はバイクが好きな奴が多くて、みんな運転が上手い。
ここで交換試乗会が始まった。みんなが私のXL1200に乗り、それぞれの意見を聞く。トーハの言葉が印象的だった。
「小っさい、でも強い。いいバイクだ」
トーハの弟のマイケルもXL1200に乗る。それにしてもこのマイケルがあの大男のトーハの兄弟だとは信じられない。私の聞き違いだろうか。
私はエヴァンのSILVERWINGに乗るが、こけないように恐る恐る広場を1周しただけで終わった。この1台で十分だ。私が運転出来るのはXL1200だけだという事がよく分かった。XL1200だから乗れるのだ。
遠くの方からラッパの音が聞こえてきた。「ゴッドファーザーのテーマ」だ。みんな笑っている。まだ姿は見えないが、イヴァンの登場だ。
イヴァンのバイクはおそらくウラジオストクから入ってきた日本の中古車で、暴走族がカスタムしたものだろう。日本の暴走族のセンスが光る。
クオースチャが私に近付いて来て、こう言った。
「明日はまだ早い、明後日だ」
クオースチャはそのあともものすごい勢いで喋って、ものすごい勢いで車で走り去って行った。そばにユリアがいなかったのでクオースチャが何を言っているのか正確には分からなかったが、近くにいたワシャが英語で教えてくれた。
「クオースチャはロシアで有名なマフィアで、ロシア中のマフィアにアキオを守るように言っておくが、その情報が伝わるのに3日は掛かるから、明日出発するな。行くなら明後日だ。」
俄かには信じられなかった。ハバロフスクは広大なロシアの極東、地図で見ると一番右の端っこだ。いくら力のあるマフィアとは言っても、広大なロシアの右の端っこにある町に住む男のひと言で、ロシア全土のマフィアが言う事を聞くのだろうか。
ここからモスクワまでは1本道だ。国道M60をひたすらまっすぐ走る。結果がどうなるにしろ、クオースチャはこの1本道を走るハーレーに乗った日本人を狙うな、と各地のマフィアに連絡してくれるというのはありがたい。
だが、出発は明後日にしろと言うのだ。私は早く先に進みたかったが、何人かに制されて今日の出発を諦めた。それがまた1日伸びるのか。
「沈没」
ふとこの言葉が頭に浮かんだ。一か所に留まって先に進めない状況の事を表す旅人用語だ。ひつのところに沈んで没する。
居心地が良すぎて同じところに長期間滞在する、といったポジティブな面と、先に行きたくても先に行けない、あるいは先に行く意欲がなくなる、といったネガティブな意味合いもある。今の私の状況は、このどちらにも当てはまる。まさに沈没寸前だ。
何かみんなが私を先に進ませないようにしているように思えた。私の身を案じての事なのかも知れない。
一瞬、この街、ハバロフスクに留まる事を真剣に考えた。モスクワ行きは諦めて、ハバロフスクでずっと過ごすのだ。長期滞在になっても、きっと誰かしらが面倒を見てくれるだろう。そうなればこの街の事をもっと知る事が出来て、みんなとの仲ももっと深まるだろう。そう思うほどこの街は素晴らしく、この街のみんなの事が好きになっていた。
しかし、私は思い直し、先に進む決断をした。出発は明日だ。
次は>『ピストル』 ハバロフスク その7 / Хабаровск (7)
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月2日 月曜日
大きなベッドの上で目覚める。ユリアはもう起きていて、ジェーナが朝食の準備をしている。顔を洗って休んでいると、エヴィリーナが目をこすりながら食卓にやって来て、続いてエヴァンもやって来る。
「ドブラウートラ доброе утро (おはよう)」
エヴァンの家で3連泊し、これが今の日常だ。非日常が完全に日常化している。
みんなで朝食を食べるが、ジェーナの作る料理は相変わらず美味い。
今日は月曜日、ユリアは一度家に戻って学校に行くと言うので、一旦お別れの挨拶をする。ロシア語に英語、フランス語に韓国語、そして日本語を話せるユリアはとても頭のいい大学生だ。日本人旅行者の私と3日間一緒にいて、どう感じただろうか。きっと彼女の未来は明るいだろう。
エヴァンが「行くぞ!」と言い、ふたりでバイクで走り出す。
ハバロフスクの街を走り回り、マガジンで買い食いしつつ、いろんなところでいろんな人と話をする。今日は月曜日・・・。
「エヴァン、仕事は?」と聞くと、エヴァンは笑って「マネージャー」と答える。私のマネージャーという事だろうか。ずっと一緒にいるが、働いている様子はない。きっと軍隊時代の障害年金で生活しているのだろう。決して裕福な暮らしをしている訳ではないのに、私の面倒を見てくれているのだ。だからせめてものお礼にと、こうやってふたりで動く時にはエヴァンの分の飯やスナックの代金も出すようにしている。それにしてもエヴァンはよく食う。ジュースも1.5リットルで買う。金の掛かる男だな。
本当は今日ハバロフスクを発つつもりだったが、どうやらそれは無理なようだ。エヴァンは明日にしろと言う。理由を聞くと、TV局がインタビューをしたがっている、と言う。アナトリオも今日行くなと言っている、と伝え聞きく。明日会いに来いと言うのだ。アムールタイガーのプレジデントにそう言われれば従うしかない。彼には恩がある。
夕方になってユリアを拾い、再び街に繰り出す。駐車場のように見える大きな広場に着くと、アムールタイガーの連中が20人ほど集まっていた。
広場ではスポーツバイクに乗った男がジャックナイフを繰り返していて、バーンアウトで路面に字を書いている男がいると思うと、ウィリーをしたまんま遠くの方まで走り去って行く者もいる。ロシア人はバイクが好きな奴が多くて、みんな運転が上手い。
ここで交換試乗会が始まった。みんなが私のXL1200に乗り、それぞれの意見を聞く。トーハの言葉が印象的だった。
「小っさい、でも強い。いいバイクだ」
トーハの弟のマイケルもXL1200に乗る。それにしてもこのマイケルがあの大男のトーハの兄弟だとは信じられない。私の聞き違いだろうか。
私はエヴァンのSILVERWINGに乗るが、こけないように恐る恐る広場を1周しただけで終わった。この1台で十分だ。私が運転出来るのはXL1200だけだという事がよく分かった。XL1200だから乗れるのだ。
遠くの方からラッパの音が聞こえてきた。「ゴッドファーザーのテーマ」だ。みんな笑っている。まだ姿は見えないが、イヴァンの登場だ。
イヴァンのバイクはおそらくウラジオストクから入ってきた日本の中古車で、暴走族がカスタムしたものだろう。日本の暴走族のセンスが光る。
クオースチャが私に近付いて来て、こう言った。
「明日はまだ早い、明後日だ」
クオースチャはそのあともものすごい勢いで喋って、ものすごい勢いで車で走り去って行った。そばにユリアがいなかったのでクオースチャが何を言っているのか正確には分からなかったが、近くにいたワシャが英語で教えてくれた。
「クオースチャはロシアで有名なマフィアで、ロシア中のマフィアにアキオを守るように言っておくが、その情報が伝わるのに3日は掛かるから、明日出発するな。行くなら明後日だ。」
俄かには信じられなかった。ハバロフスクは広大なロシアの極東、地図で見ると一番右の端っこだ。いくら力のあるマフィアとは言っても、広大なロシアの右の端っこにある町に住む男のひと言で、ロシア全土のマフィアが言う事を聞くのだろうか。
ここからモスクワまでは1本道だ。国道M60をひたすらまっすぐ走る。結果がどうなるにしろ、クオースチャはこの1本道を走るハーレーに乗った日本人を狙うな、と各地のマフィアに連絡してくれるというのはありがたい。
だが、出発は明後日にしろと言うのだ。私は早く先に進みたかったが、何人かに制されて今日の出発を諦めた。それがまた1日伸びるのか。
「沈没」
ふとこの言葉が頭に浮かんだ。一か所に留まって先に進めない状況の事を表す旅人用語だ。ひつのところに沈んで没する。
居心地が良すぎて同じところに長期間滞在する、といったポジティブな面と、先に行きたくても先に行けない、あるいは先に行く意欲がなくなる、といったネガティブな意味合いもある。今の私の状況は、このどちらにも当てはまる。まさに沈没寸前だ。
何かみんなが私を先に進ませないようにしているように思えた。私の身を案じての事なのかも知れない。
一瞬、この街、ハバロフスクに留まる事を真剣に考えた。モスクワ行きは諦めて、ハバロフスクでずっと過ごすのだ。長期滞在になっても、きっと誰かしらが面倒を見てくれるだろう。そうなればこの街の事をもっと知る事が出来て、みんなとの仲ももっと深まるだろう。そう思うほどこの街は素晴らしく、この街のみんなの事が好きになっていた。
しかし、私は思い直し、先に進む決断をした。出発は明日だ。
次は>『ピストル』 ハバロフスク その7 / Хабаровск (7)
Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー
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