『シベリアで出会った日本人』 チェルヌイシェフスク / Чернышевск

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
__________________________________________





6月6日 金曜日

気絶するように寝て起きたら朝の8時だった。アクマールは朝食にパンと果物と甘い紅茶を出してくれ、モスクワからの帰りにまたプロフを食べにおいで、と言ってくれた。
彼はウズベキスタン人だが、これまで出会った親切なロシア人と変わらぬ優しさで私に接してくれたのだ。このロシアの土地がそうさせるのか何なのか分からないが、私はありったけのスパシーバでアクマールに礼をして、アマザールをあとにする。

帰りに撮った写真です
アクマールと彼の息子の・・・名前忘れた(笑)


 






相変わらず悪路が続くが、快調に距離を伸ばす。昨日くたばりかけてたのが嘘のようだ。人生観が変わるほど美味いプロフを食べ、暖かい部屋の中でベッドの上で熟睡して、すっかり体力が回復している。太陽が出ているせいもあるだろうが、悪路も楽しめるくらいにエネルギーが満ちているのだ。

たまに出てくる橋はコンクリートで出来ていて、橋の上を走行する時は少し運転が楽になります。
たった数十メートルの距離なのですが、砂漠のオアシスのようで、ほっとくつろげるポイントです。



 




しばらくひた走っていると、遠くの方に何かが見える。人のようだが、何か違和感がある。近づいていくと、その違和感が何なのかが分かった。自転車だ、自転車を漕いでいる。
この区間で自転車に乗った人を見るのは初めてだった。また幻覚を見ているのかもしれないと思いながら目を凝らして見るが、間違いない。自転車に乗った男が100メートル先にいる!

ハバロフスクの領事館で聞いていた「自転車でロシアに来た日本人」かも知れないと胸が高鳴るが、地元のロシア人かも知れない。私と同じ方向を向いているので、見えるのは後ろ姿だ。男だというのは分かるが、なに人かは分からない。スキンヘッドのおっさんだ。強いて言えば宇宙人か・・・。幻覚ではない。

自転車に乗る男はまだ私に気付いていない。10メートルの距離だがまだ、彼がなに人か分からない。
すると、ゆっくりと近づくXL1200の排気音に気が付いたのか、男が停車してこっちを振り向く。目と目が合う。地球人には間違いないが、スキンヘッドで顔を見てもなに人か分からない。日本人のようだが・・・。
「こんにちは!」
思い切って日本語で話し掛けてみる。相手が日本人じゃなくても失礼にはならないだろう。
するとその男は予想外の言葉を返してきた。
「おう!おぬしかぁ、ハーレーで来たっちゅう大バカモンは〜!」
笑っている。日本人だったが、どうやら私の事を知っているようだ。一瞬考えてすぐに分かった。あの人だ、きっとあの人から私の事を聞いていたのだ。
「もしかして、藤本さんと会いました?ホンダのXRの・・・」
「おう!5日くらい前に会うたわぁ〜!」

やっぱり!先を行く藤本さんから私の事を聞いていたのだ。
とりあえずバイクから降りて挨拶し、自己紹介するが、このおっさん、とんでもない男だった。
名前は森塚二男美(Niomi Morizuka)。香川に住む52歳。
シベリアを抜けてヨーロッパの端っこのポルトガルまで行くという。自転車で・・・。
話を聞くと、過去にヨーロッパ各国と北アフリカ、オーストラリアをバイク(ドゥカティ DUCATI)で周遊し、アメリカを自転車で走破している、世界中をバイクと自転車で走り回った旅の達人だったのだ。

藤本さんの様子を聞く。ずっと気になっていた。
「あの人は大丈夫じゃろ〜。慣れとるわ」
どうやら藤本さんは順調に走っているようで、安心した。
心配なのはニシさんだ。
「カブに乗ったにいちゃんには会いませんでした?」
「昨日か一昨日に会うたわ。顔真っ青になってたぞ。幹線降りて電車に乗せるゆうとったわ」
そうか、ここまでたどり着いたのか。ニシさんもCUBで頑張っている。
ウラジオストクを出てから二人の事が気がかりだったが、二人とも無事に旅を続けているのが分かり、嬉しかった。

森塚二男美さんです。これはモスクワからの帰りに撮った写真です。
行き帰りが同じ道だったので、もう一度会いたい人が何人かいたのですが、森塚さんはそのうちの一人でした。こちらの方に向かってくる森塚さんを見つけた時は思わずガッツポーズしました。
広大なロシアで再会を果たすなんて奇跡だと思ったのです。
セッタ・・・。






 




森塚さんの装備はあまりにも軽装だった。地元民かと思ったのはそのせいだ。自転車も特別、旅仕様には見えない。
「サスなんかついとりゃせんぞぉ!リジッドじゃあ〜!」
もうわけわからん・・・。

森塚さんの体は硬く締まっていて、テンションが高い事もあってとても50を回っているようには見えない。宇宙人ではなく鉄人だった。

「三馬力」という、森塚さんが関係するなにかのステッカーをXL1200のタンクに貼る。これがなにかは分からないが、XL1200に貼られた初めてのステッカーだった。

別れ際に、ハバロフスクの領事館で「自転車でロシアに来た日本人」の話を聞いて以来、ずっと会いたかった事を伝える。すると・・・。

「それ、わし、ちゃう」

えっ?森塚さんじゃないの?
どうやらロシアに来た時期が違うようだ。信じられない、この道のどこかにもうひとり「自転車でロシアに来た日本人」がいるなんて・・・。
私はなぜか、自分が日本人である事を誇らしく思った。ロシア人でも未知のこのシベリアの道を、自らの意思で、バイクに乗り、そしてチャリンコに乗って、我々は思うがままに旅しているのだ。

森塚さんと別れ、再び走り出す。素敵な出会いだった。辛さなんていつの間にか消えていた。そしておそらくこの道の先のどこかに、もうひとりの「自転車でロシアに来た日本人」が待っている。
私は後ろから森塚さんに背中を押され、先を行く「日本人」に引っ張られているような気分だった。その喜びを力に変えて、加速していく。







午後5時、ガソリンを入れる。チタ Чита まであと250Km。
3日火曜日の夜10時にハバロフスクを出て、今は6日金曜日の午後5時。およそ丸3日間走ってチタはもう目の前だ。ここまでいいペースで来ている。
今日中にチタに着きそうだが、その前にキャンプがしたい。明るいうちにキャンプ地を探そう。

気の良さそうなロシア人に話し掛け、近くでキャンプ出来るところがないか聞く。
するとその男はついて来い、と言ってカフェの中に入っていく。ついていくと、カフェの店員の女と何か話をして、私に向かってこう言った。
「今日はここに泊まれ」
そして男は静かに去っていった。

今度は店員の女がついて来いと言う。言われるがままついていき、階段を上がる。
大きなカフェの2階は綺麗なモーテルだった。女が鍵を渡してくる。状況を飲み込めないが、男が部屋を取ってくれたのだろうか、しかしこんな立派なモーテルに泊まる金は無い。
女に金が無い事を伝えると、金はいらない、と言う。もうほんまにわけがわからん・・・。

さっきの男が金を出してくれたのか、この女の好意か分からないが、どうやら今夜の寝床を確保する事が出来たようだ。鍵をもらって部屋に入るが、スウィートルームじゃないか。ウラジオストックのホテルプリモーリエよりもハバロフスクのインツーリストホテルよりも、数段格上の部屋だった。部屋は広くベッドもバカでかい。一泊なんぼすんねん・・・。
しばらく立ち尽くしていると、女がバスタオルを持ってきて、風呂場に案内してくれた。
共同浴場だが、広くて綺麗だ。建物の外のシベリア林道とのギャップが凄すぎる。ここは天国かと思った。

2階には部屋が8つほどあるようだが、他に客がいる様子はない。女は他の客は入れないからゆっくりしていけ、と言っている。ワンフロア貸切だ。
女の名前はナシチャ。1階のカフェにはもうひとり女がいて、その女、レナが飯を作ってくれた。これも金はいらないと言う。

なんなんだろうか。ロシアに来てから信じられない事が次々に起こる・・・。





次は>『マフィアとキャンプ』 アリー / Арей
にほんブログ村 バイクブログ ハーレーダビッドソンへ

Harley Davidson XL1200 L Sportster Low
ハーレー ダビッドソン スポーツスター ロー



0 件のコメント :

コメントを投稿