『呪文』 ノボシビルスク その2 / Новосибирск(2)

2008年ロシアの旅 / 2008 RUSSIA touring 

※このシリーズは、2008年の旅行記になります。渡航情報や現地の様子などは2008年当時のもので、現在では状況が大きく異なっている可能性があります。また、記憶が曖昧な部分もあり、間違った情報が記載されている事も考えられます。何かの参考にされる方は注意してください。
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6月12日 木曜日

朝。目が覚めると部屋にボリスの姿はなかった。昨日のは一体何だったのだろう?
寝室を出るとボリスは朝食を作っている。気まずい空気など一切無く、昨日の夜の事などまるでなかったかのように、お互い普通に振る舞う。ほんまになんやったんやろ・・・?
ロシア式のかたいパンとゆで卵、男臭い朝食を終えて街に繰り出す。

V-MAXを駆るボリスと共にしばらく街を走ると、続々とバイカーが合流してきて、気が付けば数十台のバイク集団になっていた。そのままみんなで郊外へと走り出す。

そう、今日はノボシビルスクで「BIKE SHOW 2008」なるイベントが開催される。
楽しみだ〜。












数十台のバイクと共に数時間走り続け、到着したのは山の中。緑が鬱蒼と生い茂っていて、その緑の向こう側、遠くの方から音楽が聴こえる。
そのままバイクで緑の中を突き進み、しばらく山を登っていくと、突然景色が広がって巨大なステージが現れた。
壁のように積み上げられたスピーカーから大音量で流れるロックミュージック。山の中で行われる巨大なフェスティバル。フジロックを彷彿とさせるが、これは「BIKE SHOW」・・・。
音楽とバイクの祭典なのだ!

雰囲気はまんま、フジロック。山の中、大自然の中、音楽が鳴り響き、屋台が立ち並ぶ。
多くのロック好きと、バイク好き、街中のバイカーたちが集まっているようだ。あ〜、ワクワクする〜!

今はDJタイム、ロックミュージックでリラックスタイムだ。みんなステージ前の広場、だだっ広いダンスフロアで思い思いの時間を過ごしている。

これだけバイカーが集まるといろんなバイクがあって、見ているだけで楽しいが、その中でひときわ目を引くバイクがある。「SPYDER」のロゴが輝く前側2輪のトライクだ。こんなバイク、いや、3輪のトライクだが、日本でも見た事がない。
おそらくハーレーよりも高価ではないだろうか。少し古臭いこの街で、この「SPYDER」に乗る者がいるというのは驚きだ。

屋台でシャシリクを食うが、アントンのシャシリクの方が100倍美味しい。シャシリクはやはり、大量の煙で燻さないとあの味と食感は出ないな。

屋台を見て回ってはぐるぐる、バイクを見て回ってはぐるぐる、しばらくひとりで散策していると、ボリスが私の元へやってきた。どうやらボリスは家に戻らないといけないらしい。
「Good luck・・・」
ボリスはそう言うと、少し無言の間をおいて去って行った。
おいおい、ひとり残して行くんか。ハバロフスクと違ってここにはボリス以外知ってる奴はいない。
空は薄暗くなっていた・・・。

すると突然の盛り上がり。大歓声と同時に一気にオーディエンスがステージの方へとなだれ込む。バンドの登場だ!

ロシアのハードロックバンド。バンドの名前は分からないが、ラウドでタイトな音を響かせてフロアを揺らす。稲妻のような凄まじい音、空はすっかり暗くなっているが、ライブは最高に盛り上がっている。
これがBIKE SHOWか!

見知らぬロシア人がウォッカをご馳走してくれ、そのウォッカで乾杯する。ビールをくれる者もいて、みんな見ず知らずの外国人の私を歓迎してくれているようで嬉しい。
普段酒を飲まないが、ウォッカとビールと何かで酔っ払いながらバンドの音に身体を揺らす。
ロシアに来てこんな経験をするとは夢にも思っていなかった。

バンドが変わってもハードロックは続く。ロシア人、特にバイカーはハードロックやヘヴィメタル好きが多い。会場は大盛り上がりだが、その盛り上がりのボルテージが一気に上がった。
ステージを見ると女の姿が・・・しかもほぼ全裸、ストリッパーの登場だ!

ステージ上にはバンドとは別に男3人女3人のストリッパーたちがいて、バンドが奏でる音に合わせて絡み合う。観客の盛り上がりは最高潮。
夜、大自然の中、照明に照らされたステージ、爆音で演奏するハードロックバンド、そしてほぼ全裸のストリッパーたちの妖艶なパフォーマンス・・・。
これがBIKE SHOWか!

気が付くとウォッカと何かとヘッドバッキングでフラフラになっていた。息苦しくて頭が痛い。少し休むか・・・。
広場の脇にはテントがあって、椅子とテーブルが並んでいる。その椅子に腰掛けてリラックスしていると急に眠気が襲ってきた。

ハードロックは眠気を誘う。中学生の時にハードロックとヘヴィメタルにはまり、夜中にヘッドフォンで爆音で聞きながらよく寝ていた。私にとってハードロックはクラシック音楽以上にリラックス出来る、極上の子守唄なのだ。

テーブルにうつぶせになって寝ていると、誰かが肩を叩いてきた。顔を上げると男がひとり、少し会話した後、私についてくるように促している。男の名前はイゴール。何かは分からないがとりあえずその男、イゴールの後についていく。あぁ、頭が痛い。景色が揺れてフラフラする・・・。

途切れ途切れの映像の中を歩いて、気が付くとバンガロウの前にいた。どうやってここにきたのかは分からないが、どうやら宿泊施設のようだ。
イゴールは酔いつぶれていた私を心配し、寝床に連れてきてくれたのだった。

イゴールに連れられてバンガロウの中に入ると、ベッドの上に全裸の男と女がいた。SEXの真っ最中だったようだ、強烈な匂いがする。全身スキンの男と乳のでかい女がびっくりして何か叫んでいるが、イゴールは私のためにベッドを空けろと言って裸のカップルをどかす。当然全身スキンの男は怒っているがイゴールの方が強い。裸のカップルはまともに服も着ずに、体にタオルを纏った状態で部屋から追い出される。
イゴール、なんちゅう男やねん・・・。

イゴールに促され、さっきまで男と女がSEXをしていた温かいベッドの上に横になる。窓の外からはDEEP PURPLEの「Highway  Star」が鳴っている。音と歓声が森に反響して幻想的だ。

イゴールにありがとうと言い、寝ようとするが、イゴールは何か考え事をしているようで、その場を数歩、歩いては戻り、歩いては戻り繰り返している。そして私の顔に顔を近づけて英語でこう言った。
「You harley go moscow?」
ユー ハーレー ゴー モスクワ・・・お前はハーレーでモスクワに行くのか?か・・・。

「ダー да (そうだ)」
私はそう言って目を閉じたが、イゴールはまだ落ち着かない様子で、目を開けて見るとその場を行ったり来たりしている。そして再び私の顔に顔を近づけて
「You harley go moscow?」
と言ってきた。

「ダー」

イゴールは腕組みし、顎に手を当てて何か考えているようだ。落ち着かない様子でその場でぐるぐる歩いている。
曲は「Smoke on the  Water」に変わっていた。気怠い雰囲気の漂うハードロックの名曲だ。半分夢の中に入っているせいか、音がやたらと立体的で、ヴォーカルの感情までもが鮮明に意識の中に入ってくる。夢への導入部分、反響する音楽と歓声、そして森のざわつき。なんて心地がいいのだろうか・・・。

「ユー ハーレー ゴー モスクワ?」
「ダー」

目を閉じてもこのやり取りは続く。10回や20回どころではない。まるで呪文のようだ。

「ユー ハーレー ゴー モスクワ?」
「ダー」
「ユー ハーレー ゴー モスクワ?」
「ダー」
・・・





そのまま夢の中に入っていくが、イゴールは、完全に夢の中にいる私にこう問いかける。

「ユー ハーレー ゴー モスクワ?」





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