サイドボックス脱落と5度目の溶接

2016年タンデム旅行
6月28日 火曜日
イシム〜? ロシア



準備して宿を出る。
この辺りからモスクワまでは道が分かれて何通りかの選択肢がある。
チュメニルートで行くかクルガンルートで行くか。幹線のトラックドライバーに聞くのが一番早くて道の良し悪しの判断も正確、と奈奈の意見。










とりあえず昨日閉まってた銀行に入って現金を引き出して外に出ると陽気なロシア人が話し掛けてきた。








郵便局員?


モスクワまでどのルートがいいか聞くとチュメニ ニェット(あかん)、ということであっさりクルガンルートに決定。





メッセージとお菓子もらった。
こんな形で交流したのはこの街イシムでこのおっちゃんだけ。これだけでイシムの印象が良くなるのが不思議。こういう交流があるのとないのでずいぶん違う。







しゅっぱーつ!







花の黄色が綺麗。







広大なロシアは1日走っても基本的に見えてる景色は同じ。でも良く見ると植物の色や形、畑の様子など少しずつ違っていて、飽きることはない。







イシムを出て70Km ほどは道が良かったが・・・。







環状の交差点を左に入ってから一気に道が悪くなる。洗濯板状のアスファルト。1秒に2回ガタンガタンと衝撃が来る感じ。先の雲行きも怪しい。






アスファルトがずっと波打ってる。ガタンガタンいわせながらしばらく走る。雨がぱらつく。
突然ガガガッと何か引きずるような音、奈奈が肩をバンバン叩く。
「箱落ちたっ!」





見ると左のサイドボックスが、ない。急停止、振り返るとサイドボックスがはるか後方に転がってる・・・。
数十Km 連続した振動と衝撃でサイドボックスのステーが見事に崩壊。補強の紐も千切れてる。周りに車が走ってなかったのが救い、運がいいとしか言いようがない。もうボロボロ、リアの次はサイドボックス、絶望的、この辺りに街と呼べるようなところはない。奈奈とふたり、途方にくれる。







とりあえずボックスを拾いに行って考える。オムスクの時のようにシートに乗せてみるが、その状態で運転するのは不可能。リアボックスの上に乗せるのも多分無理。サイドボックスも結構な重量があるからおそらくリアボックスのステーがもたない。奈奈と話し合う。

先に進むためには何かを捨てるしかない。ボックスを捨てるか、他の何かを捨てるか。ボックスにはロシアで出会った人たちのメッセージが書かれているが、幸い左の箱はふた以外はメッセージがない。ふたは取り外して持っていける。でも箱は捨てたくない。見た目も重量バランスも左がないとアンバランスすぎる。
とりあえず箱は持って行くことに決めて他のものを捨てて重量を軽くすることにする。この先の大きな町クルガンまでは100Km 以上あるが、そこまでたどり着けばおそらくなんとかなる。

捨てるのもを決める。テント、必要であればどこかで買えばいい。小川のテントは愛着があるが使い倒してボロボロ、悔いはない。MSR のガソリンストーブもボトル以外はいらん。この旅に合わせて買った防水のメッセンジャーバッグも嵩張って重い、置いていこう。本当に必要なものとそうでないものをより分ける。中身が空になればサイドボックスはなんとかバイクに積める。きっとなんとかなる・・・。

対向車線を走るライダーが一人、いつものように手を上げて挨拶する。するとそのライダーが異変に気付いたのか、路肩にバイクを寄せてこっちの様子を伺う。そしてUターンしてこちらにやってくる。





BMW のイーゲル。正直バイクが1台来てもどうにもなれへんと思うけど溶接が必要だと伝える。空になったサイドボックスを積んでクルガンまで走ると言うとイーゲルはニェット(あかん)と言う。雨脚が強まる。奈奈が英語で「I'm Ok」と明るく笑顔で言うと、イーゲルは「No No!」と言って苦笑い。雨の中携帯電話で何かを調べるイーゲル、顔も携帯もビショビショ。





イーゲルは俺らが捨てる気で道端に寄せた荷物をボックスに入れろと言う。言われるがまま空のボックスに荷物を入れるが、どうするつもりか分からない。イーゲルは自分のバイクに積んでる荷物を端に寄せてスペースを作り、その空いたスペースに乗れと奈奈に言う。奈奈が乗ると次にボックスを奈奈が持つようにジェスチャーする。そうか、そうすれば荷物もボックスも捨てずに移動できる。荷物を詰め込んだボックスは重いがBMW の後部座席に座る奈奈にボックスを手渡し、奈奈はしっかりとボックスを抱える。



雨が降る中、少し先の村に入っていく。幹線から右にはずれたその村で途中歩いてる子供二人を呼び止めてイーゲルが叫ぶ。きっと道を尋ねてるのだと思うが、イーゲルの迫力に子供がビビってる。そのまま道を進み、イーゲルはバイクを停め、家の門を叩いて大声で住人を呼ぶ。溶接できる人間をそうやって探していく。人に聞いては移動し、また家の門を叩いて大声で住人を呼び、溶接できる人間を探す。





道はぬかるんだオフロード、バイクで進入することはできず、手前に停めて歩く。結局この村で溶接できる人はいなかったが、4Km 戻れば修理屋があることを聞き、来た道を4Km 戻る。
4Km 戻って着いた修理屋には溶接の設備がなかったが、修理屋のおっちゃんがこの先にある村に行けばいいと教えてくれた。少し進んで右に折れた村に入る。






おそらく人口100人ほどのその村にある青い外装の家の近くにバイクを停め、イーゲルが門を叩いて大声で住人を呼ぶ。中から出てきた男にイーゲルが大声で何かを言うと、男が外に出てきて車に乗ってどっかに行った。



どうやらその男が溶接してくれるようで、イーゲルはこれで大丈夫だ、といった感じで笑顔を見せる。





車に乗ってどっかに行った男はすぐに戻ってきた。どうやら道具を取りに行ったようで、年齢からしても現役を退いているのかもしれない。







オムスクで仕事があるから、と言ってすぐに別れの挨拶、イーゲルが去っていく。連絡先も聞けなかった。
雨の中サイドボックスが脱落してどうしようもなく立ち尽くしていた俺らを助けてくれたイーゲル。困っている者がいれば助けるのは当然といった感じで、なんの見返りも求めず、きっとこれっきりの出会い。8年前も、今も、多くのロシア人に助けてもらって、こうして旅を続けることができている。俺はそんなロシア人が大好きで、こんな出会いが大好き。
イーゲルがいなければどうなっていたか想像もつかない。ありがとうイーゲル!



で、ロシアに来てから5度目の溶接がスタート!
たまに手伝うけどあとはおっちゃんの独壇場。



昔ながらのノミとトンカチの世界。このおっちゃんすごい。溶接と、何も言うてないのに補強、素材は古びて錆びた鉄板と鉄の丸棒。溶接棒で鉄板をバチバチ、ボルトの通る穴を開けてノミとトンカチでカンカン叩いてパーツを切り出し、ボックスとコーナンで買ったステーを止めてるボルトにそのパーツを共締めして土台を作って丸棒を切って叩いて曲げて繋げて補強。みるみるうちにサイドボックスのマウントが頑丈になっていく。



ないものは作る精神、素材は鉄板と鉄の丸棒。切って叩いて曲げて繋げて溶接棒で穴開ける。昔ながらの知恵と工夫でアイデアを形にしていくこのおっちゃんの補強は見た目も最高。







リクエストして今の所問題のない右側のボックスのマウントも同じように補強してもらった。修理が終わっていくらか聞くと300ルーブル、安すぎる。リクエストに答えてくれたこともあって倍の600ルーブル渡す。1,000円くらい、それでも安い。ロシアは溶接がほんまに安い。
ロシアは修理工場が多い。悪路で車がボロボロになるから。古い車も多い。壊れても捨てずに直してずっと乗るから。壊れたら直す精神とないものは作る精神。ある材料でなんとかする。このおっちゃんはきっと昔から、今よりもっと凄まじい時代に揉まれて修理屋として生きてきたんやと思う。
イーゲルとともに小さい村を右往左往してこんな素晴らしい溶接工にたどり着いたことが奇跡のよう。
ロシアに来て5度目の溶接、一番最初ハバロフスクでスラワーが溶接して付けてくれた鉄板が生きてる。5度の溶接、その全てが無駄なく、ひとつひとつが繋がり、この村で完成した。






最高!おっちゃんありがとう!犬の顔めちゃコワイ!







どんどん進む、道もいい。







晴れ間の下で休憩してたら知らんおっちゃんが熱々のチャイくれた。このチャイ最高に美味しい!







宿に到着、ぬかるみでこける。本気のオフロード走行は無理と判明。







一時はどうなることかと思ったけど、結果的に最高の補強ができて、全てがいい方向に行ってる気がする。絶望を味わった後だけに喜びもでかい。
イーゲルと溶接のおっちゃんに感謝。





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