「ブッダの・・・、骨?」
「そうだ」
男はガラスの小瓶をテーブルの上に置く。瓶の中にはいくつかの小さな白い粒と、同じ色をした微細な粉が少し、入っているのが見える。
本当に?という質問は野暮だ。長い時間行動を共にし、語り合い、男がこれまでにどれだけ深い旅をしてきたのかはよくわかっている。男は世の中のことを知りすぎているほど、よく知っている。
”AUM”の唱え方、鐘の響かせ方、シンボルの意味・・・。無国籍のように見えるその男が語る内容は、今までに見聞きしてきた事とは少し違っていて、それ以前に知り得なかったようなことも数多い。
男はブッディストではない。
「チベットを旅した時に手に入れたんだ。ブッダの骨だ、わかるかい?」
「ああ、素晴らしいよ!とても貴重だね・・・」
蝋燭の火が灯る男の部屋ではマントラ、”AUM”が流れている。
不意に生々しい響きがマントラに混じる。ドゥドゥクの音だ。呼吸がそのまま音になったような、自由自在の旋律を奏でる男のドゥドゥクの響きがマントラと混じり、渾然一体となる。目を閉じるとブッディズムのシンボルが脳裏に浮かび、じわりじわりと、ゆるやかに回転しながら、ゆったりと動く。
循環呼吸で絶え間なく鳴り響くドゥドゥクの音はマントラとよく馴染み、繋ぎ目のない旋律はまるで永遠の一部へと誘うようで、意識が深い部分へとゆるゆると潜り込んでゆく。
もはやいつ始まっていつ終わったのかわからないドゥドゥクの演奏を止めると、男は湯のみのイワンチャイを飲み干す。それを見て慌ててイワンチャイを飲む。男は冷めたチャイを捨てるからだ。温かいチャイが喉を通り、体の中をじんわりと暖める。
瞑想の時間が終わった。
「この写真の道を歩いたのかい?」
「ああ、そうだ。道じゃないような道を歩いていくんだ、ビバークしながらね」
男が見せてくれた写真には、今までに見たことがないような風景が映し出されていた。写真を見ながら話をしていると、まるで自分自身が今その土地を歩いているような気分になれて、世界が広がるようでワクワクする。
いくつもの美しい写真を見ているうちに、ふと見覚えのある人物の姿が目に留まった。
「この写真は・・・」
「そう、ダライ・ラマ14世だ。とても素晴らしい人だったよ」
どんな人だった?どんな話をしたの?と、頭に浮かんだことは言葉にしなかった。きっと男にとって特別な時間だったろうし、仮に話の内容を聞かせてもらったとしても、全ては理解できないだろう。
とにかく、男はダライ・ラマと会って「とても素晴らしい人」と感じた、それを聞けただけで十分だ。
男は何かを思い出したかのようにすっくと立ち上がる。
「プロフ!?」
「そうだ!!」
火にかけていたプロフの様子を見にいくと、鍋の中の米が生き物のように、徐に、規則正しく、浮き沈みを繰り返している。いつもの不思議な光景、成功の証。
美味しそうだね!と言うと、男は子供のように笑う。外では決して見せることのない、男のこの笑顔が大好きだ。
テーブルの上の「ブッダの骨」は今もこの場の空気を吸い、確かにここに存在する。
「そうだ」
男はガラスの小瓶をテーブルの上に置く。瓶の中にはいくつかの小さな白い粒と、同じ色をした微細な粉が少し、入っているのが見える。
本当に?という質問は野暮だ。長い時間行動を共にし、語り合い、男がこれまでにどれだけ深い旅をしてきたのかはよくわかっている。男は世の中のことを知りすぎているほど、よく知っている。
”AUM”の唱え方、鐘の響かせ方、シンボルの意味・・・。無国籍のように見えるその男が語る内容は、今までに見聞きしてきた事とは少し違っていて、それ以前に知り得なかったようなことも数多い。
男はブッディストではない。
「チベットを旅した時に手に入れたんだ。ブッダの骨だ、わかるかい?」
「ああ、素晴らしいよ!とても貴重だね・・・」
蝋燭の火が灯る男の部屋ではマントラ、”AUM”が流れている。
不意に生々しい響きがマントラに混じる。ドゥドゥクの音だ。呼吸がそのまま音になったような、自由自在の旋律を奏でる男のドゥドゥクの響きがマントラと混じり、渾然一体となる。目を閉じるとブッディズムのシンボルが脳裏に浮かび、じわりじわりと、ゆるやかに回転しながら、ゆったりと動く。
循環呼吸で絶え間なく鳴り響くドゥドゥクの音はマントラとよく馴染み、繋ぎ目のない旋律はまるで永遠の一部へと誘うようで、意識が深い部分へとゆるゆると潜り込んでゆく。
もはやいつ始まっていつ終わったのかわからないドゥドゥクの演奏を止めると、男は湯のみのイワンチャイを飲み干す。それを見て慌ててイワンチャイを飲む。男は冷めたチャイを捨てるからだ。温かいチャイが喉を通り、体の中をじんわりと暖める。
瞑想の時間が終わった。
「この写真の道を歩いたのかい?」
「ああ、そうだ。道じゃないような道を歩いていくんだ、ビバークしながらね」
男が見せてくれた写真には、今までに見たことがないような風景が映し出されていた。写真を見ながら話をしていると、まるで自分自身が今その土地を歩いているような気分になれて、世界が広がるようでワクワクする。
いくつもの美しい写真を見ているうちに、ふと見覚えのある人物の姿が目に留まった。
「この写真は・・・」
「そう、ダライ・ラマ14世だ。とても素晴らしい人だったよ」
どんな人だった?どんな話をしたの?と、頭に浮かんだことは言葉にしなかった。きっと男にとって特別な時間だったろうし、仮に話の内容を聞かせてもらったとしても、全ては理解できないだろう。
とにかく、男はダライ・ラマと会って「とても素晴らしい人」と感じた、それを聞けただけで十分だ。
男は何かを思い出したかのようにすっくと立ち上がる。
「プロフ!?」
「そうだ!!」
火にかけていたプロフの様子を見にいくと、鍋の中の米が生き物のように、徐に、規則正しく、浮き沈みを繰り返している。いつもの不思議な光景、成功の証。
美味しそうだね!と言うと、男は子供のように笑う。外では決して見せることのない、男のこの笑顔が大好きだ。
テーブルの上の「ブッダの骨」は今もこの場の空気を吸い、確かにここに存在する。
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